男の2人暮らし
「…何をしているんだ?」
「あ。風呂上がった?ならお前も何か捨てるモノあったら出しててくれよ」
「そうか、明日は木曜日か」
「そ、木曜なのでゴミの日です」
「雑誌や新聞はいいのか?」
「それは来週の木曜。あ、そーだ」
「何だ?」
「お前のパンツ、アレもう捨てていい?」
「どれだ?」
「紫の縁取りのヤツ」
「ああ、あの黒いのか」
「もうゴム伸びてきてたろ」
「そう言えばそうだったな…じゃあ着替えを取ってくるついでに、タンスから出してくるか」
「おー。じゃあ持ってきてコッチ入れといて」
「解った。………っふ」
「なに。思い出し笑い?スケベなやつめ」
「いやそういう事では……………あぁ、いや、そうかも知れん」
「なになに、何があったんだよ」
「いや、今日会社でトイレに行ったんだがな」
「おう」
「こう、チャックを降ろして自分のを出そうと見たら」
「うん」
「そこに、お前の毛がついてたんだ」
「俺の?」
「そう、当麻の」
「毛って…………え、下の?」
「ああ。下の」
「………俺、どういう顔すりゃいいんだよ。そしてお前は何でそれで思い出し笑いしてんだよ」
「いや、だからアレだなと思って」
「なに」
「昨夜、しただろ」
「…うん」
「その時にお前の毛が私の下半身のどこかについたままになって、その上から下着を穿いたからそうなったんだなと思ってな」
「ひゃー……何か間抜け。で?その毛、ちゃんと捨てた?」
「何を言うか。捨てるわけにもいかんから、ハンカチに挟んで持って帰ってきた」
「持ってって…!え、お前、そのハンカチどうしたんだよ!」
「しまった、そのまま洗濯籠に入れたな」
「おいおいおいおい!ちゃんと毛を捨ててからにしろよ!つーかそんなモン持って帰ってくんな!」
「待て、当麻。そんなに怒るな。これにはちゃんと理由がある」
「理由って何だよ」
「お前、自分の毛の色を理解しているのか?」
「色?……解ってるよ、そんなモン。子供の頃から散々言われてきたんだから」
「うむ。自覚はあるな?」
「あるよ。どうせ髪も脇も下も、ぜーんぶ青だよ」
「そう拗ねるな。綺麗な色ではないか。私は好きだぞ」
「…………あ、そ。…で、だから何だってんだよ」
「そうだった。話が逸れた。…だからお前の毛は青い。解るな?」
「解ってるってば」
「しかし青い毛の人間なんてそうそういるものでもない」
「まあね」
「私の下着についていたのは、明らかに下の毛だ」
「…………………」
「それをゴミ箱に捨てたとしよう。清掃の人間、若しくはたまたまゴミ箱を見た人間がいて、それを見つけてみろ。驚くだろう」
「そりゃ……アッチの毛を染めてるヤツなんか、よっぽど狂ってるとしか思えないからな」
「そうではない。…いや、そう思う場合もあるか。しかし私が考えたのはそうではない」
「じゃあ、なに」
「青い毛の人間はこの会社にはいない。なのに社内のゴミ箱に青い毛が落ちている。それもどう見ても陰毛だ」
「陰毛って言い方、何年経っても笑えるのは何でだろう」
「当麻、そういう話ではない」
「俺からしたらそういう話と同列だよ、今の話は」
「当麻」
「……解った解った。ちゃんと聞くよ。じゃあ続きをどうぞ、征士さん」
「兎に角、青い陰毛が落ちている。……不気味じゃないか?」
「何で」
「社内にいない人間の毛が落ちているんだぞ。目立つし、謎が残る」
「………そうかなぁ…そもそもゴミ箱に入ってるゴミにそんな注意払うヤツっているか?お前の考えすぎだろ」
「だが可能性はゼロではないだろう?」
「それもそうだけど」
「それにお前は以前会社に来た時に、数人とはいえ見られているんだ。だからこそ、私はお前の毛を捨てるわけにはいかんかったのだ」
「…なるほどね。確かに青い毛の人間を見たことがあって、青い毛が落ちてて、しかもそれが男子トイレってんじゃちょっとアレだわな。
それを考えるとまぁ、いいけど。兎に角、ハンカチの中の毛、今度こそ捨てて来い」
「そうだった。忘れるところだった」
「あと紫と黒のパンツも持って来いよ。そっちは捨てるから」
「解った。ところで当麻、新しいパンツは?」
「とっくに買ってある。新品の下着ばっか入れてる引き出しにお前用でストックあるから、そこから好きなの取っておろしとけ」
「ありがとう」
「……さーってと。ペットボトルも潰したし、段ボールも潰した。ゴミは明日の朝の分を入れるから、まだこのままで置いといて…」
「とうまー!」
「なにー?」
「お前、何だこのパンツは…!」
「なに、何か変か?」
「変というか………何だ、この派手な柄は!」
「派手って、…何かあったっけな」
「コレだ!コレ!」
「え?…何だ、ただのハート柄じゃないか」
「ただのって……恥ずかしいではないか!今年で幾つになると思っているんだ!」
「えー。可愛いだろ。大丈夫大丈夫、征士は何穿いたって似合うから」
「お前ではないんだ、こんな物を私が履いても不様なだけだ!」
「何だよ、その言い方。俺は不様でも良いってのか」
「そうではない。お前は何を穿いても可愛いからこういった物でも似合うが、私は似合わんと言っているんだ!」
「えー」
「お前、想像してみろ!こんなパンツを穿いた私に押し倒されている状況を!」
「想像して可愛かったから買って来たんだろうが」
「かわ………っ!!……そ、想像したのか…?」
「想像した」
「…かわいかったのか…」
「他人じゃ拝めない”夜の”征士が、パブリックなお前のイメージとかけ離れたパンツ穿いてるのを想像したら、有りだなと思った」
「…………………そ、……そうか…」
「うん。何だよ、そのパンツ、要らない?」
「………いや、……お前がそう言うのなら………穿いてみても…いいか…」
「そうしろよ。絶対似合うから」
「…ああ。………今夜早速、……は、…こうかな…と…思う」
「お前、気が早いな!」
「アッチは早くないぞ」
「しかも親父ギャグだ!お前、会社と家とで違いすぎないか!?」
「公私混同を避けているだけだ。それより当麻、」
「解った解った、解ったから。お前が新品のパンツの履き心地を試してる間にゴミ纏めて風呂もちゃっちゃと済ませるから、
ちょっと待ってろって」
「ああ。ビールは冷えているか?」
「冷やしてる。俺の分、残しとけよ」
「解った。続きは私が纏めておくから、早く入って来い」
「はいはい。…あー、俺もパンツ、新しいの出そうっかな」
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14の時に出会って、それから倍以上の時間を過ごしていますが、他者が居ないとこんなもん。みたいな会話。
以前会社の来た時というのは、「振り返れない先に」の時です。