ネーミングリベンジ



「あれから俺なりに考えたんだけどさ、」

「え?何を?」

「名前のこと」

「名前ぇ?」

「ああ」

「名前と言うと…?」

「俺たちの名前を変えるんじゃなくて、鎧玉の文字を使えば問題はクリアできるんじゃないのか?」

「鎧玉……?」

「そう、例えば征士なら礼子、秀は義子、伸は信子っていう具合だ」

「…………………………は?」

「なるほど、その手があったか」

「っへー、確かにな!んじゃ遼は?じんこ?」

「馬鹿、ひとみ、だ」

「ひとみ………そうか、仁美、か」

「そう」

「んじゃーよぉ、当麻は?ともこ?」

「いいや、俺は、ちえ」

「ちえぇ?何で。ともみ、とかでも駄目か?」

「あ」

「何だ、遼」

「そうすれば仲間外れがなくなるんだ…」

「どーゆーことだ?」

「俺と遼が”子”がつかない繋がりになる」

「何で?別に”ともみ”と”ひとみ”でいーんじゃねぇの?」

「そうすると征士だけ読みを変えてない事になるだろ」

「征士?……あ、れいこ、か」

「そういう事か。確かに私の”礼”はそうそう変わらんからな」

「っはー、なるほどな。でもよ、だったら当麻を”ちえこ”にして俺の名前を”よしみ”にした方がイイんじゃねぇの?」

「いや待て、それはどうだろうか」

「んだよ、征士。何か駄目か?」

「字面で考えろ。義美だと似た形の字が並んでバランスが悪いではないか」

「えっ、そんな細かいこと言っちまう?」

「あ、でも確かにそういうのって大事かも……それにその場合、当麻だけ漢字3文字になるから俺も征士の意見に賛成だな」

「そうだな。まぁ今回は俺と遼が”子”がつかない方向で統一してるから、別に秀が無理して義美になる必要はない」

「そっかー」

「いや、いやいや、ねぇちょっと待ってよ、」

「しっかし、さぁっすがとーま!お前、やっぱ頭イイな!」

「今更な事言うなよな。ま、物事は多面的に捉えるべきって事だ」

「それは確かにそうなんだけど、ちょっと、」

「しかし確かに鎧玉とは盲点だったな」

「俺たちに関係してて、みんなが共通して納得できるものだろ?」

「それはそうだよね、そうなんだけどさ、」

「良かった、これでみんな同じになるな」

「ああ」

「いや、だからさ、ちょっと!」

「…何だよ、伸。何かまだ問題あるか?」

「問題って言うか…………その女の子の名前にする話題って、…アレ、昼間にしたよね?」

「おう、確かそーだったな」

「えっと…昼ごはんの後だったっけ?」

「そうだよ。で、当麻、キミ、あの後からずーっと静かにしてたけど、若しかしてずっとそんな事考えてたの…?」

「え?うん」

「ソファに座って難しい顔してずーっと庭の方を見たまま黙ってる間中、ずっと!?」

「うん、まぁ」

「何を照れる。昼からずっとと言うと確かに長いが、仲間の事をそうやって1人黙々と考えていたというのはお前らしいと言えばお前らしい事だ。
それは誇るべき事でもあるだろう」

「……お前に真正面から褒められると………何か余計に恥ずかしいけどな」

「おうおう、照れんなってとうま!」

「そうだよ、お陰で俺たち、誰も1人にならなくて済んだんだ!」

「そうだね、そうだね、そういうの、とても大事だと思うよ僕も」

「その割に納得がいっていないように見えるのは私の気のせいか?」

「あ、伸、お前、アレだろ。お前だけ名前でいっても鎧玉の文字でいっても読みが”のぶこ”だから、イジけてんだろ」

「そんな事じゃないよ!っていうかそもそも、僕は”しん”であって”のぶこ”じゃないし!」

「…?うん、知ってるよ?」

「っいや、そう純粋な目で言われると僕も困るんだけどね、遼…」

「なに。じゃあ何が言いたいんだよ、伸は」

「あのさぁ、…………うん、と……。…はぁ、じゃあ聞くけど、そんな名前決めてどうするの?いつ使うの?」

「へ?」

「あん?」

「…え?」

「……………使う、とはどういう事だ?」

「えっ、…だって名前、考えたんでしょ?」

「うん。昼に答えが出なかったから、それの続きを確かに考えたけど?」

「どうかするつもりだったんじゃないの?」

「っえー、んなワケねーじゃん!そんなの、お前の言葉じゃねぇけど、いつ使うんだよ」

「外でも呼べないしな」

「いや、外で呼ぶのに”しんこ”はマズイって昼間言ってたの、キミらだよ!?」

「個人のための名前である以上、いい加減な気持ちでつけてはいかんという考えからではないのか?そうだろう?2人とも」

「うん」

「え、じゃあ一体何であんなに一生懸命話し合ってたの!?何で長時間、考え続けてたの!?使いもしないのに!?」

「………何となく、か?」

「何となく、だな、俺ぁ」

「…………………………そうなの…?」

「うん。みんなで同じ事を考えるの、楽しかった。…伸は若しかして真剣に呼ぶ事を考えてたのか?」

「…………え、…う、………ん、……まぁ…」

「照れるな。そういう真面目な所は伸の美点でもある」

「照れてない照れてない!脱力してんの!……それにしてもキミに真面目って言われるとショックを受けるのは何でだろうね…」




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ネーミング』が続いてしまいました。
これにて一件落着。