ネーミング
「だからよぉ、そんな難しく考えなくてイイと思うんだよ。遼は、遼子。りょーこ、オッケー?」
「俺が、りょうこ…じゃあ秀は?」
「うーん…俺は、しゅうこ、かな?」
「伸は?」
「しんこ。………は、違うな。うーん……”伸”だから……あ、のぶこは?」
「そっか、のぶこか」
「……………ねぇ、何を話してるのさ、さっきから」
「あ、のぶこ」
「のぶこだ」
「のぶこって誰」
「お前」
「伸」
「……意味が解らないんだけど」
「だからよぉ、伸の名前じゃ”しんこ”になって、何かギリギリじゃん?」
「ギリギリって何が」
「ナニに近いから」
「うん。ちょっと人前で呼びにくいよ幾ら何でも」
「いや、いやいや待ってよ。何で僕が”しんこ”が駄目で”のぶこ”になるのさ。僕は”伸”なんだけど?」
「いやだってよー」
「ほら、これ」
「……何これ…?ニューハーフがバレーボールやる映画…?」
「うん」
「そー」
「…で、何で”しんこ”?」
「だからよ、じゃあ俺らが女だったらどうなのよっつー話」
「そう。名前、どうなるのかなって」
「……………で?」
「俺が”りょうこ”」
「んで俺ぁ、”しゅうこ”」
「…頭が痛いよ、僕は」
「大丈夫かよ、のぶこ」
「のぶこ、ナスティに言って鎮痛剤か何か貰ってこようか?」
「ナチュラルに”のぶこ”って呼ばないでよ!頭痛の原因はキミらだってのに……大体そんな名前、必要ないんじゃないの?」
「あ、でもさ、秀」
「あん?」
「無視なの?ねぇ、僕の意見、聞いてる?」
「征士と当麻は?」
「そりゃ征士は、”せいこ”だろ」
「せいこ…………せいこちゃんカット…」
「っちょ、遼!」
「っぷ…っ!!!ヤメてよ、遼!!」
「え?だ、だって…征士、せいこちゃんで、それで、」
「ヤメて!ヤメてってば…!」
「っひー!ヒーヒー…!!おっかしい!!征士、征士の頭が…!」
「確かにアレは不思議な癖毛だけどさぁ…!だからって…!!」
「何だ、呼んだか?」
「出た!!!!お前、このタイミングで出るとか神懸ってんな!!!」
「アハハハハ!っちょ、ちょっと征士、今は駄目だよ…!!」
「何だ?何を笑ってるんだ?」
「私にも解らん。遼、どうしたんだ?」
「俺もよく解らないんだけど………何かゴメン」
「…?何故謝る」
「お前絡みなんだろ。何したんだよ」
「私?私は何もしていないぞ。さっきまでお前と部屋にいたではないか」
「してなくてもっ…!ッヒー!サイッコー!」
「遼、キミって時々ホント、破壊力が……!」
「だから一体何を、」
「っも、もうイイじゃないか!次、次の話…!」
「っひーっひー……おうよ、…いや、でもその前に征士の問題を片付けとこうぜ」
「え、せいこ、駄目なのか?」
「せいこ?何だよ、それ」
「誰だ、それは」
「……っはー……あぁ駄目だ、僕もつい笑っちゃってたけど、……ねぇ、その話って必要なの?」
「征士はアレだな、せいこは危険だから……まさこ、だな」
「征士の”征”で”まさこ”か。うん、わかった。じゃあ当麻は?」
「おい、今度は俺かよ。何なんだ、ホント」
「当麻はなー……難しいなぁ、お前の名前」
「だから何だって聞いてるだろ」
「当麻は……とうこ、はちょっとな…」
「無視か」
「うーん……でもよ、まこ、…もちょっとなぁ……俺らと系統が何か外れるよな」
「うん。違うな」
「系統だとか”まこ”だとか、一体何の話をしているんだお前らは」
「頭の痛い話だよ。マトモに相手しない方がいいよ。…ほら、コレ」
「何だ?………ニューハーフ?」
「何だよ、それで女の名前にしてってんの?」
「そ。ホンット、どうしようもない話だよ……」
「ふむ………ならば当麻は”あさこ”でどうだ?」
「えっ」
「あさこかぁ…俺の”麻”の字の読みを変えたんだな?」
「うむ。さっきの話しの流れで行けば、私の名前も読みを変えたのならそれでいいのでは?」
「それいい考えだな、征士」
「イヤ!でも待て!」
「何だよ、何か問題があるのか?」
「あるよ!大有りだ!」
「何故」
「だってよ、それじゃあ”まさこ”と音が近いだろ、”あさこ”と”まさこ”。ホラ」
「あー…」
「そっか」
「なるほどな」
「いや、納得しないで。ねぇ、みんな、」
「では私を”せいこ”にすれば良かろう」
「っぶ!!そ、それは駄目だ…!」
「何故」
「ゴメン、征士」
「何で遼はさっきから謝ってるんだ?」
「何ていうか…事情が………俺もちょっと解りきってないけど…」
「事情とかそういうのもいいけどね、あのね、冷静に考えてよ。何度も聞くけどその呼び名って本当に必要?」
「あ、伸は?伸は?”しんこ”?」
「いんや、のぶこ」
「では秀は?」
「俺ぁ、しゅうこ。遼は、りょうこ」
「しゅうこってのもちょっと違和感がないか?」
「そうかな?」
「ふむ………では、ひでこ、でどうだ」
「ひでこか」
「あ、でも待て。そうすると遼だけ読みが変わってない」
「あ」
「本当だ」
「だがしかし、何と読み替えれば?」
「そうだよ、他の読み方、あんの?」
「うーん………はるか、とも読めるけど……はるかこ、はなぁ…」
「じゃあよぉ、はるこ、ってどうよ」
「俺、はるこ?」
「はるこ」
「だが我々よりも随分と原型がなくなった気がするな」
「だよなー……何とかなんねぇかな」
「うーん…やっぱり秀を”しゅうこ”に戻すか、それか俺を”まこ”にするかだな」
「だがそれも少し違和感があるな。…やはり私が”せいこ”になるのが一番無難のような気がする」
「それは勘弁してくれ、マジで」
「俺も罪悪感が………」
「だ、そうだ。征士はもう”まさこ”固定でいくしかないみたいだな」
「だが弱ったな、それではいつまで経っても結論が出んぞ」
「いや、だからね、キミ達。別に結論を出さなくていい話だし、そんな呼び名も必要ないんだよ?ねぇ、冷静になろうよホント」
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アホしかいない。