第三者的視線



特別課外活動部に入る前のゆかりだって、”真田先輩”の事は知っていた。

ボクシング部主将だとか、無敗だとか、めっちゃくちゃ美形だとか、超クールだとか。

放って置いても周りの友達が騒ぐので耳に蓋でもしない限り、彼の話はいつだって耳に届いていた。
2年になって、”部活”に入って寮が変わって、そしてその寮が彼と同じで、となると、
そりゃもう周囲の友達の食いつきは驚くほど良かった。

彼女はいるのかなとか、どんな女の人が好きなのかなとか、好きな食べ物趣味日常生活、エトセトラエトセトラ。



そりゃ、カッコイイ人だな、とは思ってたけど。
だからって別にタイプじゃないし、正直、周りがイイって言えば言うほど何か気持ちは覚める一方だったし。
ぶっちゃけ言っちゃうと、日常なんて彼女達が見たら世界が崩壊するんじゃないかってくらい、奇天烈だし。

それに何より、とゆかりは溜息を吐くと、校舎の方をさり気なく見上げる。




今は体育の時間。
グランド手前にはE組とF組の女子が。
奥のほうのバスケットコートの方ではE組とF組の男子が、それぞれに授業に励んでいる真っ最中だった。


それにあの子達の一番知りたい”好きな人”って項目、どうも怪しいのよねぇ……


走り幅跳びの順番待ちをしているゆかりの視線の先は、3年の教室。
窓際には目立つ色素の薄い髪。


そしてゆかりは、また溜息。




窓から見える色素の薄い髪の主、モテモテ大王(コッソリ順平命名)の真田の首がちゃんと黒板の方を向いていないのが
ゆかりの位置からでもよく見えた。
どうせ頭のいい先輩なので少しくらい授業から気が逸れてもテストに何の影響もしないのだろうケド、
だからこそ別に先生も特に何も注意しないのだろうケド、

だけど。幾らなんでも。





真田先輩、堂々とグランド見すぎ。ってか………奥、見すぎ。





視線を真田から、彼の見る先へと移す。


体育の時は流石に帽子を取って、実はちょっと触ってみたいと思っているボウズ頭のクラスメイトの姿。






真田先輩、マジで順平見すぎ。



ここでもう一度溜息。









「あ、さ、真田先輩、こっち見てるー!」

「えー!嘘、ッキャーーー!」


E組の女子の一人がかの先輩に気付いたらしく黄色い声を上げると、続けざまに他の女子も見てキャーキャーと騒ぐ。
あまりに騒ぎすぎた為に教師が、こらー授業に集中しろーなんて言うけれど、あまり抑止力にはなっていない。



だからさ、アンタら見てんじゃなくて信じられないでしょうけどウチのクラスのボウズ見てんのよ、その人。


声に出しては言えないけれど。
言ったところで彼女達は信じないだろうし、信じてもギャーって言うだけでどうせまた黄色い声で先輩を呼ぶんだろうし。

ついでに言ったところで、肝心の真田先輩ご本人様もどうも自分で気付いてないみたいだし。



ここが一番問題なのよねー、と他人事なのに何故か疲れてしまうゆかりの目の前の女子が走って跳んだ。
あぁ、次はあたしか、と靴紐をキツク結びなおす。

砂、入ると面倒なのよね。



立ち上がる直前、ちらりとまた教室の方を見ると真田が何やら嬉しそうな、と言うよりラブオーラ、を出している。

そういう雰囲気が判るのも若しかしたらゆかりのペルソナのアルカナの影響なのかも知れない。
まぁ兎に角真田からオーラが出ている。ゆかり自身が知りたくなくとも。


正直げんなりしつつも、嬉しそうに見ている視線をまた辿っていくと………






真田に気付いたらしい順平が、飛び跳ねながら大きく手を振っているじゃないか、
そう、まさしく彼に向けて彼のためだけにあの人懐っこい笑顔で。






ゆかりは激しい眩暈に襲われる。

あんた、バッカじゃないの……ホント、バッカじゃないの。




順平は今現在、入院中のチドリという少女のところに通いつめており、どうもそちらに向けてラブを発信中なので
(それはアルカナなんて関係なく、誰がどう見てもはっきりと判るほどに)
彼の真田に対するその行動はただの”憧れる先輩”への犬並の喜び表現なのだろうが、
しかし真田にとってはそれはもう、愛しい人が自分を見てくれているという喜びにしかならないのに。


真田先輩も真田先輩で、とっとと自覚してくれりゃ玉砕でも何でもしてこんな迷惑かけてくれないで済むのに…!



ゆかりはイライラとしてきた。
馬鹿の友人は馬鹿なので気付きそうも無いし。
奇天烈な先輩は良くも悪くも凡人離れしてるために気付きそうも無いし。

てゆうか先輩が気付いたら順平、アンタ掘られるんじゃないの………?






そんな一抹の不安を振り切るように、ゆかりは勢いよく走り出して、砂地へと大きくジャンプした。




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第三者=ゆかり。

流石のゆかりも、順平とチドリの恋は見守っていても、
順平が真田にケツを掘られるのはチョット……みたいな。

てゆーか生々しいってーの。とか言ってそうな感じで。