スマイリー
何がキッカケだったか忘れたが、何故か俺と順平はラウンジでたまたま2人きりで。
そして何故か順平は俺の表情が乏しい事がイケナイと指摘してきて。
そんな事じゃ好きな人に好きなんて言ったって恐怖心しか与えないっすよーなんて言われて。
何で俺がそんな事をわざわざお前に言われなくちゃいけないんだとか、
人に恐怖を与えるほど俺の顔は怖いのかとか、
色々と突っ込みたいコトは沢山あったけれど、一先ず一番言いたい事があって。
全然勘違いしてるぞ、順平。
それだけをただただ言いたいのに、順平のテンポのいいマシンガントークで
俺は突っ込みを入れる間さえ与えてもらえないまま。
なぁ、順平、勘違いというか間違ってるんだ順平。
「真田さん、いっすか?もっとこう、ニコヤカにしてくださいよ。あー駄目駄目!
いっすか?そんな口端だけ持ち上げたら不敵な笑みになっちゃって子供さえ寄らなくなりますよ?」
一番子供じみてるお前が寄ってきてるのに何を言う。
そうは思ってもまた間を貰えずに話が進む。
さっきから突っ込む瞬間を待っているのだが、もうコレは半ば諦めた方がいいという事なんだろうか…
そう思いながらまた、言われるままに笑顔を作る俺も俺だ。
………というかわざわざ笑顔を作る必要性を全く感じないんだが。
「真田さーん、折角の美形が笑えないなんて勿体無いっすよー?」
そう言う順平の顔はいつもの人懐っこい、警戒心の欠片も感じられない笑顔。
どうやったらそんなに笑えるのか逆に聞きたいくらいだが、これもさっきからのマシンガ(略)
というか。
だから順平、お前解ってないのか。
俺はわざわざ笑顔で女に何か言う必要性なんてないんだ。
恐らく今後先の人生でも。
俺が笑顔で愛を打ち明ける必要のある女なんかいないんだ。
なぁ、解ってくれよ順平。
「……まーぁ黙って笑うのは確かに難しいっすけどね。
あー、ん、じゃあアレだ。真田さん、何か楽しい話題っつーか素敵な話を俺にしてくださいよ、笑顔で」
俺に万人に通じる楽しい話題だとか素敵な話だとか、そういったものが出せると思うのか、順平。
俺はお前じゃないんだ。
マシンガントークに気圧されて何も言えずにムゥと黙る俺の眉間にまた皺が寄っていたのか、
その皺を突然伸ばされた順平の指にぐいっと押される。
「駄目ですって、美形美形。笑顔の美形を目指して下さいよー。
黙ってもイケる笑ってもイケる喋ってもイケる、そんな男になってくださいよー真田さーん」
だから何でお前は俺にそんな美形になって欲しいんだ。
そんなに世の女に俺をモテさせたいのか。
そんな必要性ないのに。
俺は万人に愛されたいわけじゃないんだ、順平。
「あーもー、難しいっすねー真田さんを万人受けにするの。
イヤまぁ今でも充分、見た目とのギャップでオイシイ部分もあるんすけどね」
うまい話題の出ない俺に順平が半ば呆れたような、コイツなりに言えばしょーがねーなー的な顔で言う。
苦笑い、とでも言おうか。
目の前でクルクルと表情を変えて、けれどそのどれも笑顔につながる表情を見せる順平が逆に不思議でたまらない。
「うーん、まぁ、アレっすけどね、俺は真田さんのそういうとこ、寧ろ好きなんスけどね」
というか、どうしてアッサリと笑顔で好きだなんて口にできるんだ、順平。
俺が、笑顔でも真顔でも、どっちにしても上手く言えないその言葉を、
一番言いたい相手で一番言ってもらいたい相手のお前が。
何でそんな誰にでも見せる笑顔で簡単に言えるんだ。
無性に悲しくて腹が立つじゃないか。
なのに何だか、解っているのに、そういうつもりじゃないと解っているのに、
妙に嬉しくなるじゃないか。あぁ、チクショウ。
「あ、真田さん、笑った!そっすよ、その顔その顔!!」
また笑顔。満面の笑みで、見てるこっちまで幸せになるような順平の笑顔。
俺の一番好きな、笑顔。
どんな女が笑って見せても俺の心を捉えて放さないのは、お前のそのどこまでも純粋なその笑顔なんだ。
だから他の女に笑顔で何も言う気なんてないし、好きだなんて言う気も無いんだ、
きっとこの先一生。
だけど、今なら何となく。
この幸せな笑顔を見ながらなら、ひょっとしたら大丈夫じゃないかな。
そんな気がしてきて。
「好きだ」
笑顔につられて俺も思い切って口にしてみる。
「そっすよ!なんすかー、出来るじゃないっすかーー!!」
まるで自分の事のように喜んでガッツポーズをとる順平に、もう一度繰り返して。
「好きだ」
「うん、そっす!」
「好きだ」
「やった、これで完璧っすよ!」
「あぁ、大好きだ」
「ソレ言ったら真田さんだったら何もしなくても相手はOKっすよ!」
「大好きだ、愛してる」
「あ、スゲェ大サービスなコトまで言い出した!ってか俺に言ってもしょーがないっすよー!!」
あはははと開けっぴろげに笑う順平を見る。
まぁ今はまだいいさ。
だってイキナリ言ったところでお前はきっと上手い具合に逃げてしまうだろうし。
だからもう少し、このままでゆっくりと外堀を埋めてやるんだ。
「これで好きな女を怯えさせるなんてヘマも心配なくなったっすね!」
うん、だから順平。お前、勘違いしてるんだって。
*******
こんな さなだは かゆくなるね!
好きなんですがね、こういう真田も。順平しか見てないんだよ。あぁソレはいつもか。
順平は真田を今以上にモテモテにしたいの3割、面白いから遊んでるの8割。
あれ10割超えてるよ。
順平はノンケのほうが最近は萌ゆるであります。