それからの。
なんていうか、ビックリの連続でしたよ。
だって順平さんが一緒に暮らそうって言ってきて。
ちゃんと話聞いたら順平さんの家でっていう事だったけど…
本当、言葉が足らなくてビックリしましたよ。
まぁ…正直、物凄く嬉しかったです。
順平さんとまた一緒に暮らせるって事、
また一緒にご飯食べれるって事、
そして夜中まで一緒に話せる事。
何より、一番のトモダチと近くにいつもいれる事。
全部全部、嬉しかったんです。
とは天田顕くんのお言葉。
いやービックリしちゃったねー俺も。
天田にさ、家に来いよって話して、ちょっと急すぎたから、駅に付くまでの間で考えていいよって言って。
そんで天田から離れて真田さんと最後の会話を…なんて思った矢先にサァ。
真田さんから、一緒に暮らそう、なんて言われるんだモノ。
いやービックリした。
多分、天田もこんくらいビックリしたんだろうな。
一瞬世界を見失ったよ、俺。
うーん、そんで考えたんだよね。
家に帰るのもアリだけど、真田先輩と暮らすのもアリかなぁと。
だって家の場所聞いたら、俺の家より全然ガッコ近いんだもん。
便利な事にコンビニもあるし、スーパーだってあるし、
それに俺の中でカッコイイと当初思っていた男(現在はカッコイイ4割オモシロイ6割が本当のトコ)と、
一緒に暮らせるなんて、チョットおいしくねぇ?
でも天田を家に呼んだ後なんだもんナァ。
コレはなァ……
さっき天田に話す前にフル回転させた脳を連続で動かしたよ、流石に。
とは伊織順平くんのお言葉。
暮らそうと言って、スグに返事が貰えるわけはないとは思っていたが、
まさか天田を家に呼んでいるとは思わなかった俺の頭は真っ白だ。
いや、見た目の話じゃない。見た目の話じゃないんだ。
天田を呼んで俺は呼ばんのか。
あぁそういう問題じゃないな、うむ。
しかし困った。もう部屋は用意してしまったんだ。
二人でも充分に余るほどの広い部屋を。
そんな部屋に一人はキツイ。
困った。だって俺はすっかり順平との生活スタイルを脳内である程度組み立てていたんだぞ。
しかしだからと言って、天田の話を白紙に戻せ、とは言えんし、
天田だけをお前の家に預けろなんて以ての外だしな。
あぁ……うぅん……うん……そうだな…
とは真田明彦くんのお言葉。
そこから7年はあっという間に過ぎた。
真田は大学を在学中にプロテストを受け、あれよあれよと言う間に有名ボクサーになり、
これまた在学中から世話になっているジムでプロ兼後輩たちのトレーナーも務めていた。
トレーナーなんて儲かるんすか?と聞いたのは順平だったが、そこは流石というか何というか、
真田目的の女性が多くジムに詰め寄せた為、これはいける!と踏んだジムがダイエットプログラムを始め、
その指導にも真田が引っ張られるようになったため、給料は普通の人よりも遥かに良かった。
順平は、というと一応大学に進学して無難に卒業。
在学中に、俺は荒垣さんのようになるぜ!と鼻息荒く挑んだのが何故か料理。
そして元々の器用さが活かされたらしく、メキメキと腕を挙げバイトしていた料理屋を辞めた後、
個人で車を買い、そして昼過ぎにソレに乗ってクレープを売るという商売に出た。
話しやすい人柄や持ち前のセンスでそこそこに人気も出た。
お客である中高生に言わせれば、ジュンペーさんは俺らと一緒みたいなモン、らしい。
天田は高校3年になり、月光館学園にそのまま入学していた。
カッコイイ系ではないがどことなく可愛らしい顔立ちから校内外問わず女子の人気もあり、
担任の鳥海先生からは、真田明彦の再来と呼ばれている。
普通に授業を受け、特にクラブには所属せず、放課後は適当に過ごす。
購買でパンを買う日もあるが、大体の日はお弁当持参の高校生。
成績の方は勿論、ソツなくこなす、というまぁ教師側からの評判もいい生徒になっていた。
「それじゃあ、行ってきまーーーす!」
勢いよく玄関を出た天田はエレベーターホールに向かわず途中にある階段を下りる。
朝の通勤通学時間は、エレベーターを使うと余計に時間がかかる事を解っているから。
途中まで降りたトコロで鞄が妙に軽い事に気付き、慌てて今し方出たばかりのドアのほうを見る。
ちょうどそのタイミングでドアが開き、相変わらずのボウズ頭が飛び出してきた。
「おーい!天田、忘れモン!!弁当、ベントーー!!!」
高校卒業前に更に背が伸びて180cm近くになった順平が青い小さなカバンに入れた弁当を、
天田からも見えるように持ち上げ、叫びながら階段の方へ走ってくる。
「ありがとうございます」
再び階段を上って天田もそれを受け取って、
「でも順平さん、朝なのにそんな大声出しちゃ迷惑ですから」
と、キッパリと可愛くない事を言う。
言われた順平は悪びれもせず、あーそりゃースイマセンなーと返し、
そのあと、とっとと行けよ遅刻すんぞ、と手をヒラヒラさせて彼を見送った。
「おい、順平、俺のこの靴下の片方を知らんか」
玄関を振り返れば、真田が靴下を片手に立っている。
「え、洗濯物で戻ってナイッスか?」
「片方しか見当たらん」
えー、真田さん、前もそんな事言って俺が見たらあったじゃないっすかーちゃんと探して下さいよー。
そんな事を言いながら順平は家に戻って行った。
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結局3人で暮らしてます。
真田が一家の大黒柱です。
順平はお母さんポジション。
天田は子供ポジションにはなりたくないそうです。
もう設定とか突っ込んでは駄目。