ことのはじまり−青少年Jの場合−
寮が廃止になる事になった。
それを聞いて真っ先に思い浮かんだのが、あの家の事だった。
お袋と会った時に聞いた話で、俺が家を出てすぐぐらいに親父が後悔というか何というか、
まぁ反省かなぁ、したらしくて、アル中の人が通うカウンセリング?かなんかを真面目にやったらしい。
そんでその効果でここ数ヶ月は随分真人間に戻ったらしい。
その上、前みたいに仕事もバッチリ完璧にやれるようになったらしい。
つまり、俺はアノ家に戻っても大丈夫な状態になったらしい。
親父を目の前にして聞いた話じゃないから、どうしても拭いきれない不安はあったけど、
まぁ、つまり、そゆこと。
俺は、帰る場所があった。
ゆかりっちは結局寮じゃないけど、どっかで部屋借りるって言ってたし、
その辺は桐条先輩が援助するって言ってたし、
それに、アイギスも高校に戻ってくるって言うし、ゆかりっちと暮らすらしいし。
あーいーなー、女の子二人の部屋!何て可愛い響き!!
……じゃなくて。
いや、羨ましいのは本音だけどさ。
で、桐条先輩は勿論、進学。と、グループのトップを兼業。
頭が下がるね。ホント。
風花は家に帰って、もっとちゃんと胸張ってやってくって言ってた。
真田先輩はまだ聞いてないけど、あの人は進学だし、多分、どっかで暮らすんだろうな。
家に帰んのかな?聞いてないからわかんねぇけど。
てか、最近、真田先輩何故かスゲェ忙しそうで話なんて全然してないし。
なのにこっち見て、たまにニって笑うんだよ。ワケわかんない。
まぁ俺も手ぇ振って応えてみてんだけど。
それで、さ。
天田。
天田はどうすんのかな。
アイツ、また親戚の世話になんのかな。
前に話に出た時に、別に何も悪くないけど、あんまりノビノビしてないっぽい口調だったから、
ちょっとだけ気になってんだよな。
気になるついでに、この前お袋と会って話した時に天田の話もしちゃったんだけどな。実は。
まだ”少年”なワケだし、色々ノビノビできないのって、何か悲惨だナァって思ってサァ。
ちょっとお節介かもしんないけど、思わずお袋にその時相談しちゃったんだよね。
「天田少年を家に連れてきてもいい?」
って。
うん、お袋、ビックリしてたわ。当然だけど。
そんでまぁ流石に親父と相談するって言ってた。当然だわな。
で、その返事がちょうど1週間前に来たのよ。
電話で。
親父もお袋もOK出してくれたんだ。
コレで天田さえOKすれば、俺は晴れて少年のノビノビとした生活を守れるわけだ。
いや、別に天田を保護したいわけじゃないんだけど、自分が何か思春期にイヤな事があった分、
これからがある天田には何にせよつまんねぇ大人社会の犠牲にはなってもらいたくなかったっつーか何つーか。
ところがドッコイ、俺ってばそういう大事な話を天田に切り出せなくってさぁ。
いやー確かに部屋は汚くって片付けるのに手間取った部分はあったよ。
青春の匂いのする青少年の必須アイテム、エロ本の処理をゆかりっち達にバレないように処分したり。
でもそれを差し置いても、俺は天田に切り出せなかったんだよ。
勇気という名のモノが足らなかったんだナァ。
そんで、もう本当、際になっちゃったんだけど、これからみんなで寮を出ますよって日になって、
言わなきゃなんねぇ状態で、やっとこさ、天田を目の前にしてみたワケ。
天田の表情が妙に暗いのは気のせいか?
もしかしてやっぱり親戚の家はあまりノビノビできないからか?
うーん、コレはやっぱり、俺、言わなきゃなぁ。
「寮なくなっちゃうなー」
一先ず軽いジャブ。
「そうですね」
「うお、相変わらずクール。もうちょっと俺との別れを惜しんでよー」
続けてみる。
顔を窺ってみたけど、やっぱりちょっと暗いな。
入部初期の天田とはちょっと違う暗い顔。
浮かない顔だな、こりゃ。
まぁそんな顔しながらも、僕との別れも惜しめとか言い返してきたけどサ。
あらやだ、本当この子ったら可愛くない。
で、まぁ色々うんうん唸って(俺がね、俺だけがね)、そんでやっとこさ捻り出せた言葉、
「なぁ、天田、俺と一緒に暮らさないか?」
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順平は順平なりに子供が心配。
お父さん、復帰してるけどいいんだよ、非公式だから。(逃げた)