それはあまりにささやかで、それはあまりに幸せで



あまだ、じゅんぺい。




文化祭の準備で遅くなったその日、担任の鳥海先生からのお達しで
男子は家の近い女子を送って帰るよう言われた帰り道。

普段から楠田さん天田君と呼び合うような、あまり喋ったことのない女子と二人きりだったその帰り道。

確かに最近、怖いニュースが増えてきたけど…なんて
沈黙のまま街灯をぼんやり眺めていたその微妙に気まずい、薄暗い道。


何の連絡も無く遅い天田を心配した順平が途中まで迎えに来ていて、そして、






あ何彼女と帰ってたの?悪ぃなー気付かなくって

違いますよ何言ってるんですか

またまた乾ちゃんったら照れちゃってー

あ、あの、違うんです本当、先生が送れっていっただけで天田君とはその

え、そうなの?何だよ俺てっきり彼女かなって思ってテンション上がっちゃった

小学生じゃあるまいし勝手にテンション上げないで下さいよ

まぁそう言うなってーんじゃ取敢えずハジメマシテ

は、初めまして、天田君の……お兄さん、ですか?

楠田さんそんなワケな…

そうです、兄の順平です。天田順平。いつも乾がお世話になってます

いえそんな私全然何もしてませんし…その、お兄さんって面白い方ですね

あホント?アリガトーねー乾ったら真面目すぎて面白くないでしょー?






アハハハハーなんて笑う順平と、クラスメイト。

彼女との接点なんてない為、彼女が天田の家の家族構成を知らないのは当然としても、
それにしても。




天田 順平。




順平が勝手に名乗ったその名前。


何だか珍しく天田のテンションが上がりそうになる。


天田順平。

天田 順平。




あまだ じゅんぺい。







自分と同じ姓の、自分の愛しい人。


それがただの冗談でも、ただの偽りでも。








彼女を家まで送り届けた後の、二人だけの帰り道。

今日はちょっとコンビニにでも寄り道して、お菓子でも食べながらのんびり帰りたいな、なんて。




少年の心は、たったそれだけで言いようもない幸せが広がるのだ。




*******
順平はただお兄さんぶりたかっただけと言うある意味の残酷さで。

順平って一人っ子だったんではなかろうかなぁ。弟が欲しくてたまらなかった子。
だから天田を構いたくっちゃうタイプ。

ウチの順平は一人っ子設定でお願いします。