ノクターナルイミション
触れるだけのキスをした後で、
「……真田さんにはナイショな」
と順平が照れ笑いを見せた。
ベッドに横たわっている順平。
そしてその順平に覆いかぶさるように乗っている、天田。
服は寝室の床に脱ぎ散らかしており、二人は既に裸だった。
愛しい人の表情を一瞬一瞬記憶しようと暫く無言で順平の顔をまじまじと見続けていた天田だが、
どうやらその行動が順平の羞恥心を煽ってしまったらしく、
こういうのって恥ずかしいからとっとと始めちゃってくれよ、などとか細い声で抗議されてしまう。
しかし、解りました、と返事をしたものの天田も正直困っていた。
ヤりたい。物凄くヤりたい。
けれど解らないのだ、どうすればいいのか、が。
男同士というのも勿論初めてだったが、それ以前に性交渉自体、した事が無かった。
以前AVを見た事はあったがソレはハッキリ言ってただの”見世物”でしかなかったし
そんな純粋にAVに集中していたワケではなかったので流れなど右から左で記憶に残っていない。
何よりそういった知識でどうこうするよりも、純粋に、ただ純粋に順平を気持ちよくしてやりたい思いがあまりにも強くて、
その強すぎる思いをどう表現していけばいいのか、そこに悩んでいた。
今度は組み敷いた彼の身体をじっと見てしまう。
まだ高校生の自分とは違い、しっかりとした骨格。
日常の中で必要な分だけついた筋肉。
昼間の甘いクレープの匂い。
そして胸にある銃傷。
一つ一つを確かめるように見つめていると、あまりの恥ずかしさからか順平は声には出さず顔を背けてしまった。
その仕草にさえ、天田の下半身は更に血で硬くなる。
初めての性交渉、それも心から愛する人と。
その嬉しさと幸福感と、そして幼さからくる焦りと、その全てで勃ち上がってしまった自分自身が
何だか居た堪れなくなり、下半身の状態をなるべく順平に悟られないように腰を浮かせたまま肌を密着させていく。
最初に肉の薄い頬にキスをした。
続けて顎鬚を舌先で擽り、喉に噛み付いて鎖骨をなぞると、
僅かに順平が息を飲んだのが肌を伝って解った。
それが嬉しくて更に手の平でも彼の質感を確かめていく。
微かな隆起をみせる胸を撫で、脇腹をイタズラをするように擽れば頭上から、くすぐってぇって、という
声が聞こえてくるが、妙に艶を含んだその声は逆に天田を喜ばせた。
その声を出させているのが自分だと思うと、言い表せないほど幸せで、
そしてその声をもっと聞きたいと貪欲になる。
首に痕をつけてしまっては日常でバレてしまうので、それは避けた。
代わりに胸に吸い付く。
ちゅ、と音を立てて吸えば、順平が再び息を飲んだのが解った。
あまり気に入らないけれど銃傷にも舌を這わす。
彼の”大事”な部分を、自分が支配するその感覚に酔いながら。
そこをしつこいくらいに舐めていると、堪え切れなくなった順平が僅かに喘いだ。
驚いて視線をあげると、薄暗い部屋でも彼の頬が上気しているのが判った。
そして愛しさが増していく。
自分の下半身のことなど忘れてきつく抱きついてみれば、自分の下腹部を押し上げる感触に気付いた。
自分と同じように、彼もまた、この行為に興奮している事を如実に伝えるその感触。
布団を被っている為ソコがよく見えないのは解っていたが、つい視線をソコに落としてしまう。
そしてもう一度順平の顔を見た。
興奮とはまた違った意味で顔を赤くしている、その順平と視線が合った。
恥ずかしさからか、一瞬そらされた視線が再び天田の元に戻ってきて、普段とは全く質の違う艶かしい笑みを投げられる。
愛しい愛しい愛しい。堪らないくらいに愛しい。
コノヒトをもっとキモチヨクしてあげたい。
この身体から溢れてしまいそうな言葉に出来ないこの想いを、もっともっと伝えたい。
天田の頭の中はもう何をどう、なんて考えられないほどにぐるぐると回っていき、
我慢がきかなくなって順平のソコに触れた。
急ぎすぎたその突然の快感に、遂に順平が短くではあるがハッキリと喘いだ。
その声をそのきつく閉じられた目をもっと続きを、と貪欲になっていった天田は
それでも丁寧に順平自身を追い詰めていく。
身体に触れる事に関してはイマイチどこがイイかなんて解らなかったが、
この直接的な行為なら同じ男なのでどうすればいいのかは理解していた。
こんな風に撫でられたら、こんな風に少しきつく握られたら、それがどんな刺激を生んでどんな快楽を生むか、
そんな事は普段あまり自慰をしない天田にだって理解できていた。
暫くソコを攻め立てていると、順平が身体を少し起こして天田の胸を押し返してきた。
気持ちよくなかったのかと不安になり手を止め彼の次の行動を待つと、
順平は緩く胡坐をかいて座り、その上に天田を乗せ、そして、
同じように天田自身に手を伸ばしてきた。
ホラもうお前もこんなんなってんじゃんキツイだろ同じ男だから解るって。
そんな風に言いながら、同じように自身を握りこまれる。
愛しい人の手で引き出される快楽は、まだ未発達の少年にはあまりにも刺激的で。
今にももう出してしまいたい程の眩暈に襲われる。
他人の手でソコを触られるのは初めてで、
そして天田自身、あまり自慰をしていない事も手伝って限界は早くにチラつき始めた。
しかしそれでもまだ堪えようとするのは、自分だけ先にイってしまうのが嫌だという気持ちと、
折角のことなのに勿体無いという気持ち、
そして彼はまだ余裕なのに自分だけ限界なのが耐えれないという、男としてのプライドだった。
それでも彼の武骨な手での快楽と、目の前の艶を含んだその表情にもう耐えれそうに無い。
我慢しきれず強く目を閉じる。
すると優しい声で順平が、我慢しなくていいぞ、と言った。
あまりにも優しくて抱擁感のあるその声に、天田は一度は閉じたその目を開き、
目の前で優しく微笑んでいる彼の顔をしっかりと見て、そして。
少し身体を強張らせた後、その精を順平の手や腹に出してイった、
ところで目が覚めた。
天田は暫く呆然とした。
隣のベッドを見ると、今日も順平は馬鹿のような寝相で涎をたらして寝ている。
身体を少し起こせばその向こうのベッドで静かに眠っている真田も見えた。
「………ゆ…め」
何て夢を見たんだろうと自己嫌悪に陥る天田の視界の端に入った時計は、夜中の3時を回った所だった。
泣きたい、イヤ死にたい、あ待って死ぬのなし、色んな人に謝りたい。
と、項垂れるが実はそんなに時間が無い。
自分の下着辺りにあるその嫌な感触。
天田は、あぁ、やっぱり泣きたいかも…と自己嫌悪を深めた。
真夜中に洗面所に立つ。
つい先ほどまで穿いていた自分の下着を片手に、洗面台に栓をして張られていく水を呆然と眺めながら、
自分の下着だけ1枚多い事の言い訳を考えていた。
あれ天田のパンツ多くね?
順平の声がリアルに聞こえそうで怖い。
そう言われたらどうしよう。
イヤ普通に言われたのならまだいい。
彼のあの平素の性格を考えてみれば、下手をすればからかい口調になる事も予想される。
あれーナニナニ乾ちゃんったらお漏らししちゃったのかなーそれとも何かなーお兄さん解らないなー。
…………言いそうだ。
あの人、絶対言う、コレ、言う。
状況証拠がある以上、言い訳したところで無駄なのは解っているので
予測され得る最悪のパターンにも勝てる言い返しを考える事にした。
(問)パンツが1枚多いです
(回答例1)気のせいです
………無理。ていうかコレは嘘バレバレ。
(問)パンツが1枚多いです
(回答例2)僕のではありません
有り得ないね、ていうか順平さんは普段から洗濯してるんだからこれもバレバレ。
(問)パンツが1枚多いです
(回答例3)洗濯機の中に残ってたのではないですか
お風呂上りにコレ穿いてるの、今日見られたから駄目だ……
そもそも何で自分の下着を洗いながらこんな事を考えているのか、と天田は目が線のようになってくる。
第一夢精なんて健康な証拠で寧ろ第二次性徴を迎えた思春期の男子ならば普通の事であって
何も恥ずかしがることではないし、それに男として通常の事を何の理由があってわざわざ説明を必要とされるのか。
そんな考えに到達し始めていた。
(問)パンツが1枚多いです
(回答例4)僕も男なのです
………あ。これ、良くない?
そうだ、そもそも順平だって漫画雑誌の巻頭グラビアを見て助平だのヤらしいだの言われても、
だって俺ってば健全な男の子だもんしょーがないじゃん、なんて言ってるではないか。
そうだ、そんな順平ならば自分の下着が1枚くらい多くたって、
「アラ乾ちゃんも男の子だもんね」
程度で済ましてくれるに違いない。
仮にからかいに来たとしても、先程の答えを返せば彼だってその気持ちくらい解ってくれるだろう。
そうだそう返そう、と天田は決意する。
「………天田ぁ…?なにしてんの??」
決意した直後に背後から順平の声が聞こえて天田は思い切り固まってしまう。
間違えてはいけない。
決意は”した”だけであってまだ”固まって”はいないのだ。
固まっていない決意など、アッサリと崩れ去り、
「あ、いや…あの……」
と結局、しどろもどろになってしまうものなのだ。
カチコチと音の聞こえそうな動きで振り返れば、順平は寝惚けているのか目を擦りながらボーっと立っている。
パンツが若干下がっていて馬鹿っぽいと言うよりも本当に馬鹿の姿で。
いつまでも言葉の出ない天田に、順平は、ん?と言いながら手元を見てくる。
手元には泡にまみれた少年の下着。
順平の視線がソコに釘付けになっている事に気付いた天田は、何か言われる前に
先程の回答をする為に口を開こうとしたその瞬間。
「…っあ、その、わり、…お、俺ちょっと喉渇いて何か飲もうと思ってさ、そんでその、
洗面所が電気点いてたから何かなって思っただけで、その…いや、マジ、うん、何も見てねぇ、うん、わりぃ!」
と予想外に狼狽え、そして顔を真っ赤にしてよろめきつつも走り去っていった。
離れた所で、イテェ!と何かに躓いたらしい順平の悲鳴を聞きながら、
天田は2枚目の下着を洗う破目になる前に、とトイレに駆け込んでいた。
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そんな予想外の反則級なリアクションされたら2回目の一人戦争勃発ですよ!みたいな天田で。
遂に天田君に夢精させましたアララ。
天田君の萌えつぼはどうやらマニアック。
タイトルはまんま”夢精”。ごめんね色々と。