ホムンクルス



セージへ。(或いは暴走したセージを止めるためにこれを読んでいる人へ)


最初に謝らせて欲しい。
お前を作った事を。お前を傷つけた事を。
謝っても謝り足りないけど、謝らせて欲しい。許してくれなくてもいいから、謝らせて欲しい。

お前のシステムを止めたのは、お前が嫌いだったからじゃない。
お前の行為が許せなかったからじゃない。

ただ、俺にはそうするしかもう手段が無かったからだ。


俺がセージを作ったのは前にも話したとおり、自分が寂しかったからだ。
家にいたアンドロイドは皮膚も温かさも、心もなくて、そんな存在と過ごした子供の頃が寂しかったから、
お前みたいに一緒に過ごしてくれるアンドロイドを作った。
俺はお前を作りあげた時、本当に幸せだった。
作り上げた時だけじゃない、ずっと幸せだった。

セージが目を開けたとき。
セージが日常生活を1人で送れるようになったとき。
セージが俺との会話を10分以上続けることが出来るようになったとき。

どれもこれも嬉しかった。
自分の生み出した命が愛しいと思った。


なのに、俺は自分勝手だ。

いつからかは解らない。
でも、気が付くと俺は自分の中で自覚してはいけない想いがあるのを知った。
お前に向けてはいけない感情を持ち始めていた。

マズイって思った。

そして気付いたんだ。
いずれ年老いて命が尽きる自分は、噛み砕けるものさえあれば永久にエネルギーを摂取し続け、眠りさえすれば永遠に命を保つことが出来るお前を
いつかは遺して逝くのだという事に。

父さんがレディに柔らかな皮膚も豊かな髪も、人格も与えなかった理由を知ったのはその時だった。


親しくなればなるほど、大事にすればするほど、いつか来る別れの時に自分がしてきたことが、相手にとって如何に残酷な結果を招くか、
父さんは知ってたんだ。

俺は遺される事で自分が抱えた傷を、心を持って生まれたセージに同じように与える事になる。

正直、それが怖くて仕方が無かった。
お前は無愛想だけど優しいアンドロイドだ。
幾ら言ってもきっと俺の傍を離れないだろう?
だから俺は、お前に永遠に共に寄り添ってくれる生命を作ってやらきゃいけないって思った。

それから俺も、お前から離れなきゃいけないって思った。

そう、焦ったんだ。
お前の優しさがお前自身を傷つけてしまう前に、俺が何とかしなくちゃいけない。
それがお前を作った俺の責任だ。

そう思っていた。なのに。


もう遅かったんだな。
お前は、嬉しい事に俺がお前を思うよりも強く思ってくれてたなんて。

これが人間同士だったら、それかアンドロイド同士だったら嬉しいことなのに、俺たちは結局相容れない生命だって、凄く、
……凄く、辛かった。


後悔しか出来なかった。

俺はお前に沢山の幸せを貰ったのに、俺がお前に与えられるものは何もなかった。
それどころかお前を傷つけることしかできなかった。
だからせめてお前が深い悲しみを受ける前に、俺が終わらせるしかないって思ったんだ。

俺は自分の我侭な思いのためにお前を作った事を、後悔した。


でも結局今はもう辛くて仕方ない。
本当に身勝手だって判ってる。
でも、それでもセージがいなくなって辛い。
きっとお前は俺の事を我侭なマスターだったって思ってるだろう。
あんなに世話をしてやったのに、最後にあんな仕打ちした俺をヒドイ奴だって思ってるだろう。

だけど信じて欲しい。
許してくれなくてもいいから、これだけは知ってて欲しい。


お前は何も、悪くない。

俺は、セージと過ごした毎日が楽しかったし、幸せだった。
もしお前が何かの拍子に目覚めることがあったのなら、今更だけどお礼が言いたい。
ありがとう。

それから、





愛してる。



トーマ.H。


追伸。
もしもセージがイレギュラー化してしまって、止める手段を探してこれを読んでいる人へ。
もしもセージが正気に戻ったらこの内容を伝えて欲しい。
お前は決して疎まれた存在じゃないって。
俺はお前を愛していたって。
アンドロイド、それも男性型相手に変だと思うだろうけど大切なことだから、絶対に伝えて欲しい。
お願いします。




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トーマの手紙。