アンド、
あーあ、疲れた疲れた。
子供の食事って結構あれこれと気を遣うモンなんだねぇ。
手間だし味付けも考えなきゃ駄目だし、でも栄養バランスは大事だし…あー、本当、手間!
……でも全部残さずに食べてくれると………嬉しいよねぇ。
しかもずぅっと笑顔なんだもん!
ホンッッッット、当麻可愛い!!…但し、小さい方ね。
いや、大きいのもそりゃそれなりには可愛いけど、小さいほうの可愛さには勝てないね。
もうねー、ホットケーキ食べてる時もそうだったけど、小さい手をさ、きゅーって握ってるの!
それで一口食べるたびに、おいちー、とか、あーっ、って喜ぶんだよ?ニコニコニコニコしてさ。
(食べさせてるのが大きい当麻だからっていうのもあったかも知れないけど、いいんだよ、僕の自己満足で!)
作り甲斐があるよね、ああいうのって。
僕の母さんもそうだったのかな?
だったら……嬉しいな。
でも本当、疲れた。
アレコレ考えすぎた、本当に。
「あら、伸。ちょうどお茶を淹れようと思ってたの。あなたも休憩がてら、どうかしら?」
「ありがとー。助かるよ」
流石ナスティ。気が利くね!
女性ならではのキメ細やかさっていうの?
それにしても……っもー、後片付けも何もかも僕とナスティに任せっぱなしであの子達はどこへ行ったんだろうね!
毎回毎回、言わなくちゃ手伝わないんだもん!
どーいう事だって言うんだよね!
そりゃ遼は不器用で手間が増えることのほうが多いから正直手伝ってもらっても困るけど。
当麻はどうせ家に帰ったら殆ど毎日、全部一人でしなきゃいけないから此処でくらい楽させてあげたい気もするけど。
征士は………何か、男子厨房に入らずで育ってそうだしなぁ…一から説明するの面倒だし、変に凝り性だから面倒臭いけど。
……秀くらいは手伝って欲しいよ……ってそっか。アイツはアイツで実家が料理屋だから、当麻と似たようなモンか。
って結局僕がする破目になるんだよなぁ………別にいいけど。いいけど、たまには愚痴りたいよねぇ。
…と、そういえば。
「家中が静かだけど、皆外に出たのかな?」
いつもなら当麻がリビングのどっかで寝てるけど今日ばっかりはチビがいるから寝てるとも思えないしな。
でも室内から声はしないし…遼や秀と一緒に、チビを連れて外かな?
征士も??行くかな?あの征士が??
……うーん、…アイツ、結構あのチビのこと気に入ってる風ではあったもんね。一緒に行ったかな?
でも実際、どうなんだろう?
「征士は本屋さんに行くって言って出て行ったわよ」
「本屋?珍しいな。何かのついででもなく行くだなんて」
そりゃ征士はマメだけど屋敷のある場所は正直、交通の便が悪いから用事は纏めて済ませるのに珍しい。
「ええ、何でも買いたい本があるそうよ。あと当麻から頼まれた本もあるからって」
「当麻の分も?……それくらい自分で買いに行けばいいのに、本当にモノグサだね、あの子は」
「でもホラ、今日はあの子がいるでしょう?当麻も自分で出て行くわけにいかないからじゃないかしら?」
「あー、…そっか」
そうだよなぁ、あの小さい当麻ってば当麻の姿が見えないと、さっきまで幾らご機嫌で遊んでても大泣きしちゃうんだもんなぁ…
お陰で当麻ってば眠り損ねてるけど大丈夫なのかな?
睡眠が足らなさ過ぎて急に倒れたりしないよね?
アイツの場合、前科があるから怖いんだよなぁ…
それにしても。
「僕は不安だよ…」
「何が?」
「小さい当麻」
今は一時的に預かってるとはいえ、あの子は結局…
「当麻がいなきゃ泣くのに、煩悩京に帰してちゃんとやっていけるのかなぁって」
「……あぁ、…」
あの子が生まれた理由は煩悩京を一日も早く平定させるため。
今ここにいるのは、あの子の使う部屋を片付けるため。
て事はつまり、あと数時間もすればあの子は煩悩京に帰らなきゃいけない。
けど、肝心のあの子は当麻の姿が見えないと愚図っちゃう。
「そもそも今日、ちゃんと帰せるのかってのも不安だもんなぁ」
別れる間際になって当麻にしがみ付いてまた大泣きするんじゃないかなぁ…
大丈夫かなぁ。
子供が泣くのは仕方がないけど……何か、可哀想になってくるんだよね。
大きい当麻のこと、親みたいに思ってるように見えるし…そうなると、子供と親を引き離すって言うのは…
「それも心配だけど、私は大きい当麻の事も心配よ」
「…当麻?何で?…寝不足のこと?」
「ううん、そうじゃないの」
言ってナスティはアイスティの入ったグラスに視線を落としてる。
何か引っ掛かってるのかな。悲しそうな顔をしてるけど。
「…当麻、あの子と離れるの……ちゃんと出来るかしら…」
「何で?」
それこそ、何で?だよ。
当麻は確かに世話は見てるけど、結構ドライな感じだと思うけどなぁ。
女の人の目からは違うように見えるのかな?
「ホラ、当麻って小学生の頃にご両親が離婚してるでしょう?」
「…うん」
「家族が”出て行く”瞬間を覚えてるわけじゃない?……きっとね、凄く傷付いたんだと思うの」
「………そうだね」
本人はあっけらかんと言うけど、…ショックはショックだった筈だよね。6年とは言えまだ小学生だったっていうし。
「毎年みんなで夏に此処に集まるけど、別れるときになると当麻ったらいつも上手に振舞えてないのよね。
…見送りが下手って言うか………巧く言えないけど、いつだってソワソワして、いつも以上にぶっきらぼうになったりして」
…確かに。
誰の顔も見ないようにしてると言うか、さっさとその場から離れたそうにすると言うか…
親しい人と”別れる”っていうのが辛いのかも知れないな。
たとえそれが一時のことであったとしても。
「小さい当麻は突然出てきた子だし1日も預からないけど、当麻からすれば自分と同じ細胞で出来た、家族みたいな存在かも知れない。
その子と別れるってなると、当麻が傷付かないか…私はそれも心配なのよ」
「そう、…だね」
考えてもなかったな。
そうか、当麻、そうだよね。
僕らは可愛い可愛いって小さいのを可愛がってるけど、当麻からしたらちょっと特殊な存在なんだもんね。
自分のクローンとはいえ、あんなに無心に頼られたら………ううん、…ねぇ。
それに当麻って子供に弱いトコあるからなぁ…
………自分も煩悩京に行くって言い出さなきゃいいけど…
何となく、2人同時に溜息。
−……ぁー!
「……何か聞こえた?」
「…気がするわね」
−……ぅまー!
「秀の声?」
「遼の声も聞こえた気がするわ」
「とうまー!!!」
「当麻ぁー!どこだぁー!?」
……2人の声だ。
こっちに近付いてきてる?
「っあ!伸、当麻のヤツ知らねーか!?」
「コラ、庭から上がるならちゃんと靴を脱ぐ!」
「お、おぅ…!っつーか、そうじゃない、それどころじゃねー!」
「どうしたの?秀。遼も落ち着いて」
「う、う、うん。と、当麻知らないかな!?どこ!?」
「当麻?」
「当麻?…あなたたち、一緒じゃなかったの?」
「ちげーよ、俺らは当麻からあのチビ預かって外に連れて出てたんだよ!」
預かってって……
「え、それで当麻は何してるの?」
征士に本を頼んで、遼と秀にチビを預けて…本人は?
「当麻、ちょっと寝るって言ってたから…」
寝るって…!
…あ、いや、…うん、今日ばかりは仕方ないか…朝の4時に当麻が起きてるなんて奇跡に近いし。
しかもアンダー擬亜さえない状態で妖邪兵と戦う破目になったって言ってたし。
でも。
「でも此処にはいないわよ?」
「だよなぁ、いつもならこの辺で寝てるはずなのにイネェもんなぁ……ヤベェ、困った……」
「てっきりリビングに寝転がってると思ってたからチビにそう言っちゃったのに…」
「僕たちはてっきりキミらといると思ってたよ、当麻」
「いないって。……でもどうしよう、チビ、余計に泣いちゃうかな…」
困ったなぁ…
あの子、結構泣くと長いんだよね。ていうか当麻見つかるまで泣き続けるんだよね……はぁ。
「…ねぇ、ところで…遼、」
「なに?ナスティ」
「その肝心の小さな当麻は、どこにいるのかしら?」
「えっ?」
「へ?いや、俺らが先に走って、白炎の背中に預けて後から来てもらうようにしたから、後ろに…」
「………白炎しかいないのは、僕の気のせいかな」
「えっ!?」
「へぇ!?」
心なしか申し訳無さそうな顔の白炎が庭にぽつーんっているのは……目の錯覚かな?
「びゃ、…白炎、と、当麻は!?」
「いや、グルル、じゃねーって!マジで!!山ん中!?山ん中で落っこちちまった!?」
「そんな…っ!山は整備してもらってるけどこの時期、虫が沢山いるのよ!?悪い蚊に噛まれたりしたら…!」
かぶれるとか、肌が荒れるとかその程度ならいいけど、高熱が出たり意識を失ったり、…下手したら命だって……!!
「と、兎に角キミらが来た方向に戻ってみよう!僕たちも探すから!!!!」
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毎年夏休みの殆どの時間を柳生邸で過ごす彼ら。