アンド、



あのさぁ、俺、飯食べたらやっぱり眠くなってきちゃってさ……
そこで頼みがあるんだけど、いい?
や、別にそう面倒でもないと思うんだけど…………俺が寝てる間、チビの相手しててくれないかな。
2時間くらい寝たらちゃんと起きるようにはするしさ、その間だけ、俺がいないのを気にしない程度に遊んでやってて欲しいんだ。
……いい?アリガト、じゃ、頼んだから。



「……って当麻に言われたはいいけど…どうしよう」

「いや、どうしようって俺に言われてもよー」


目の前には、小さい当麻。
俺と秀がヒソヒソ相談してるのを知ってか知らずか、白炎をご機嫌に撫でて遊んでる。
もう怖くなくなったんだなって思うと嬉しいんだけど、さあ、ホント、どうしよう。


「当麻が近くに居ないのに気付いたら、泣くかな」

「泣くんじゃねーかな。何かアイツがトイレに行っただけですげー泣いてたもん、昼前」

「…だよな……」


思わず溜息。

確かに朝の4時に起きるなんて俺でも辛いし、征士でも多分、用事がない限りしない事を、あの当麻がやらされた挙句、
昼前まで寝なおしもせずにいたってのが既に凄い事なんだよな。
だからもう限界なんだと思うんだ。
昼を食べながら、よく寝なかったなって思うもん、俺。
しかもチビの食事の世話をしながら自分のご飯も食べて……何か本当に親かお兄ちゃんみたい。

って、そうじゃなかった。
そんな事を考えてる場合じゃなかった。
当麻のためにもチビの遊び相手、全力でしてやらなくちゃ。






「白炎、ゆっくりな。純の時より、ゆっくりな」


ちょっとヒヤヒヤしながら白炎に言うと、解ってるって目で答えられた。
背中の当麻(小)は白炎の背中がよっぽど面白いのか、キャッキャと無邪気に喜んでくれてる。
良かった、散歩に出て。


「………あーのさぁ、遼」

「何だ?」

「何で俺だけ、歩きなん?」

「え、」


チビを白炎に乗せて、で、1人で乗せるのは危ないから俺も乗って。
秀も散歩のお供なんだけど、でも流石に3人乗るのは白炎に申し訳ないから歩いてもらってるんだけど…


「…………やっぱり、駄目、かな」

「いや、ダメダつってんじゃねーけどさ…解ってるけど、やっぱこう、説明っつーか断りナシに、さも当然のようにされると 流石にちょっとショックかなーって」

「ゴメン、俺、気が回らなかったみたい」

「や、いーっていーって。俺も言いたかっただけだし。謝ってもらいたかったんじゃねーし。こっちこそ、悪ぃ。変なこと言った。
つーかさ、それよりも散歩で2時間は正直、キツイぜ?他に何かする事考えとかネーと」


屋敷を出て暫くは山道が続くし、森っていってもちゃんと整理された土地だから迷うことも危ないこともそうないしなぁ。
さあ、どうしようか。
何かして遊んだほうがいいかな?やっぱり。


「うーん……鬼ごっことか、できるかな?」

「どうだろうな。それなら庭でやった方が安全だったんじゃねーかな」

「それもそうか……。かくれんぼ…は、もっと無理だよな」

「俺たちの姿が見えなくなったら、当麻がいないのに気付く可能性もあるぜ?だってコイツ、元は当麻だろ?だったら目聡いだろうし…」

「そうだよな……あ、」

「何」

「高い高いは?」


天気もいいし、空が見えるところでしたら喜ばないかな。
元が当麻だってことは、天空としての性質も持ってる可能性、あるかも知れないし。

……って秀、どうしたんだよ、そんなに顔を歪めて………俺、何か悪い事言ったのかな?


「………何か、駄目、…かな?」

「……いや、ヤメとこう。何があるか解ったモンじゃねーし、俺ぁまた伸に怒られんのはゴメンだぜ」

「…”また”?」

「や、…あーあー、…忘れて、忘れて、マジで。何でもないから」


で、何でソコで背中を擦るんだろう?
何か伸に怒られたのかな?
高い高いで?

………もしかして、もう高い高いしたのかな。それで当麻を天井にぶつけた、とか…
で、怒った伸に背中を思いっきり叩かれた、とか………

……うううううん。
俺の考えすぎかな…いや、でも…秀のリアクションからしてありそうな……それに朝の伸の構いっぷりからしたら、その罰もありえそうな…
いや、追求はやめとこう。
秀の顔が全部物語ってるし。


「びゃくえー、びゃくえー」


それにしても当麻、楽しそうだなぁ。
好奇心は旺盛みたいだ。やっぱりその辺、当麻と同じだなって思うと何か面白い。
………あ。


「ひょっとして迦遊羅たちが掃除してる理由って埃云々じゃなくって、本当は触られたら困るものを片付けてるんじゃないのかな」

「え、何だよ急に」

「チビ当麻を預けていった理由だよ」

「……。あー、なるほどね。確かにこういうのを作ったり急成長させたりするような装置があるって事は、何か厄介なものも他にありそうだもんな。
それをチビが触ったりしたら危ないしなぁ………それに、好奇心で下手に外に出たりして妖邪兵に襲われたらアレだろうし…」


そういうリスクがあっても当麻を作るって事は、あっちは今、本当に厳しい状況なんだろうな…
でも俺たちに助けを求めるわけにもいかないからって……何とか力になってやりたいな。


「俺たち、何かしてやれる事ってないのかな」


確かに前は敵だったけど、今はそうじゃないんだ。
当麻(大)を貸すわけにはいかないけど(時間の流れ的に)、それでも何か…


「…ってイタ!何するんだよ、秀!」

「バーカ、遼、考えすぎだって。アイツらは自分たちがする事だって解ってるから、俺たちに助けを求めなかったんだろ?
マジでヤバくなった時は絶対に声かけてくるって。あっちの異変はこっちにも通ずるんだ。だから、な?」

「………うん」

「それに何かしてやれる事っつーけど、あるだろ」

「え?」

「ホレ、目の前に。このチビの相手。ちゃあんとしてやんねーと」

「でもこれは当麻に頼まれた事で…」

「当麻に頼まれた事だけど、その当麻が眠れなかった原因はこのチビで、このチビを作ったのは煩悩京だろ?」

「………そっか」

「そーゆーこと!」


そう、だよな。
小さい当麻が無事に育って立派に軍師としての役割を果たせるようになったら、それが迦遊羅たちにとって一番いい事なんだもんな。
出来る事を出来る人間がすればいんだもんな。


「秀、ありがと」

「お、おう。……おおお、何か改めて礼を言われると…………照れる!」

「照れないでくれよ。秀ってさ、時々凄い本質を見抜いた事を言うから、俺、救われるんだし」

「………時々っていうのが、ミソだな…」

「…え?」

「いや、何でもねーよー。さ、チビ、どうしようか?」

「………?」

「……チビ?」

「…………」

「……”当麻”」

「あい」


…うん、困ったよな。
当麻も怒ってたけど、このチビ当麻、完全に自分の名前を”当麻”で覚えちゃったもんなぁ…
チビじゃ返事もしないもん。


「…大きい当麻、ココにいないし…いいよな?当麻って呼んでも」

「しょーがねーわな。当麻って呼ばねーとコイツ、自分が呼ばれてるって解ってねーんだもん。な、とーま」

「あい」


あはは、返事した。可愛い。
髪の毛サラサラだなぁ…柔らかい。実際の当麻のより柔らかいよな?


「とーた、あー、ねー?」

「うんうん、とーた、な」


………………え?


「………秀、当麻、何て?」

「さぁ?」

「さぁって……だって今返事したじゃないか」

「いやー、こういうのって適当に返しときゃご機嫌なモンだって。本人は一生懸命喋ってるんだ。同意してやりゃいーんだよ。な?」

「たーっ」

「ホラ」

「………そういうモンなのか…」


ちょっと良く解らないけど、まぁ下に兄弟のいる秀が言うんだから、そうなんだろうな。

あーそれにしてもココ、気持ちいいなぁ。
近くに小さいけど池?湖?(どっちでもいっか)があるから、風もちょうどいい具合に涼しいし…
…あぁあ、欠伸出そう。
って秀も出てる。
あ、チビもか。


「そうだ、お昼寝って、どうだ?」

「お、いーんじゃね?どうよ、白炎」

「…そんな顔するなよ、白炎」


さっき当麻に枕代わりにされたから懲りてるのかな?
でも当麻、寝相悪くなかったし可愛かっただろ?


「当麻、お昼寝するか?どーする?」

「………………まー、ないない?」

「うんうん、まーないない、だな」

「……まー、ない………な……うぅ……っ」

「そーだなー、まーないなぁ」


いや、秀、ちょっとコレは……


「まー、……まー、」

「おう。まー、」

「秀、違う…!”まー”って……!」


大きい当麻のことじゃないか…!?って言おうと思った矢先。


うわああああああああん。

って………ああああ、…気付いちゃったか……


「わわわ、遼、どーしよー!?」

「どーしよーって、言われても…!」


どうしよう!?




*****
遼の中での区別方は(小)か(大)。当麻(大)が聞いたら眉間に皺を寄せそうな。
遼は頭の中で考えてたことを急に口にするから人をよく驚かせてそうな気がします。