アンド、



それにしても驚いたわぁ。
当麻だしやっぱり靴も青い方が似合うかしらと思ってそっちを選んで(もう片方はピンク色。だって可愛かったんですもの)帰ってきたら、
まさか当麻が2人に増えてるなんて思いもしなかったわ…
最初は珍しかった青い髪も見慣れてきてたけど、やっぱりそれが2人になってるとどうしても驚いちゃうものなのね。
思わず買って来た靴、落としちゃった。


ちょうど迦遊羅が来てて事情は解ったけど…
煩悩京にそんな技術があった事も驚いたし、それで当麻を作ったって言うのも驚いたけど、まぁ…解ったわ。
だから小さい当麻と大きい当麻がいるっていう事も納得ができたし。

それにしても当麻の頭の良さはご両親からの遺伝も確かに多少はあるでしょうけど、本人も言ってたように家庭環境が大きく関係してるはずなのに、
小さな当麻を同じように天才に育てるのは難しいんじゃないかしら…?
って思ってたら、どうあっても同じ思考回路に育つようにセットしてあるっていうから更に驚きよね。
しかも急成長させてて2週間ほどで今の当麻と同じくらいの歳になるって言うし………本当、煩悩京の技術ってどうなってるのかしら?
そういう事が出来るのに、再建に関しては地道にしか出来ないって言うのも不思議でならないわ…
(それに関しては当麻自身が向こうで散々喚いてきたらしいから私からは何も言えなかったけど、当麻の感じからして改善案は出なかったみたいね)




それはそうと小さな当麻よ。
うふふ、やっぱりあのお洋服、よく似合ってたわ。
セーラーっていうとどうしても水兵さんのイメージで、水滸の方が近いかなって悩んだけど買って正解ね。
それに何より小さい子の魅力と言えば、やっぱりあのムチっとしたお尻だもの!
最近はスッキリしたデザインのものが増えて来てるけど、やっぱり子供はそこを強調しなくっちゃ!
……でも実を言うとあのズボン、女児用だけど………バレてないわよね?
誰も何も言わないってことは、きっとバレてないわよね、うん。
一番バレそうなのは伸かと思ったけど、あの子もあの服は気に入ってるみたいだし、当麻もどうかなって思ったけど何も言ってこないし。
(当麻の場合はもう何かを言う気力さえないっていうのが正しいのかしら?)

それにしても朝の大泣き(征士の持ち方が悪いって伸は言ってたけど、やっぱり知らない人に囲まれて不安だったのが一番だと思うのよ…)以来、
あれからは大人しいしお利巧さんにしてて手間がかからなくて、こういう性格なのかしら?って思ったりしたけどやっぱりどうも違ったみたい。

だって私達だけの時は大人しい子だったのに、大きい当麻と会ってからはあの子、感情を素直に見せ始めたもの。

例えば当麻がちょっと視界から消えると泣きそうになって、「あー、あー」って必死に当麻を呼んでるし、
当麻にべったりくっついて傍から離れようともしないし。

ふふ、当麻は当麻で随分面倒臭そうな顔をしてる割に結構面倒見てるのも面白いわね。
自分と同じ生物なのに人に迷惑かけられないからって言ってるけど、あの子、案外子供の世話するの巧いのよね。
あの戦いのときも何となく純を気遣ってたりしてたし。(言い回しがちょっと端的過ぎて純にはその場では伝わってなかったけど)

それにしても伸も征士も、可愛がりたいのに小さな当麻が自分たちのところに来てくれないのが相当悲しいみたい。
目に見えて落ち込んじゃって…ふふふ、面白いの。


「ナスティー」

「なうちー」


あら。言ってる傍から来たわね。


「なあに?」

「ゴメン、ナスティ。何か子供に食べさせられるお菓子とかって、ある?」


大きい当麻と小さい当麻が手を繋いでる光景って、凄く不思議。


「ミルク煎餅なら買ってあるわよ。はい、どうぞ」

「ありがとう。ほら、お礼は?」

「あーとお」

「どういたしまして」

「ご飯の前だから少しだけだぞ?」

「うん」

「お前、返事だけはいいんだよなぁ」


当麻ったら……普段、自分が伸に言われてることと同じことを言ってるの、気付いてるのかしら…?

…あら?
小さい当麻の服、くしゃくしゃになってる……。


「当麻、この子、どうしたの?」

「へ?」

「お腹のあたり、服がシワシワよ」

「…あー、………うん、ちょっと…」

「ちょっと?」

「だっこー」

「お前、食べながら抱っこせがむなよ。俺の服に食べカス落ちるだろっ」

「だっこ、だっこー」

「あーもーっ……!…たく、…これで満足か」

「たーっ」

「はいはい、よしよし………あああ、もう、俺、いつ寝れるんだろ……で、何の話してたっけ?」

「服の皺よ」

「ああ、………俺、トイレに行ったんだよ。そしたらその間に…」


大方、当麻の姿が見えないから泣いてたってところね。よく見たらまだ睫毛が濡れてるわ、この子。
お腹のあたりをきゅっと掴んでたんでしょうね…ふふ、光景が目に浮かぶわぁ、…ちょっと可哀想だけど、可愛い。


私達しかいない時は本当、1人にしてても泣かなかったって言うのに(指しゃぶりをして泣くのを堪えてた風ではあったらしいケド)、
やっぱり元が同じだからかしら、それとも当麻の事を親みたいに思ってるのかも?何にしてもこの子、泣くようになったわね……
それに抱っこもせがむようになったし。

正直に言うとね、ちょっと安心したの。
手間がかからなくってお利巧さんなのは楽でいいけれど、普通これくらいの子供だったらまず親の姿を探すでしょうに、
この子ったらそういう事を一言も言わないんだもの。
当麻のクローンだって知らなかった時は、若しかして子供の頃からご両親が家にあまりいなくて余所に預けられる事が多かったのかしらって考えたりもしたわ。
それで知らない人の家にいることにも、知らない人たちに囲まれることにも慣れてるとしたら………お利巧だけど、寂しいわよね。

でも経緯を聞いてみればまぁ……若しかしたらこの子自身、親がいない事は何となく解ってるのかしら?って思えるけど…
でも実際どうなのかしら?当麻の後ろにずっとくっついてるのは、同じ遺伝子だから安心するのかしら?
それとも、……当麻を親と思ってるのかしら…?
どっちにしても、子供らしいのは可愛いわ、やっぱり。
まぁ朝早くに起こされた当麻としては少しでも眠りたいんでしょうけど、この子がいたらそれも出来なくて辛いでしょうね。


「まぁ、世の母親もそういう苦労をして子供を育ててると思えば、貴重な経験よ、当麻」

「ナスティ…笑い事じゃないって……しかも俺、男だから母親にはならないし」

「あら、女だけが子育てするなんて考え、駄目よ?」

「解ってるってば。……ていうかそもそも俺、結婚にも子育てにも向かない性格だと思うけど…」

「そう?」


結婚はまぁ合う人がいればどうにかなる話としても、子育ては今のを見る限り、結構向いてると思うけど。
ま、本人には言わない方がいいかしら?


「ナスティ、目が笑ってる。何か言いたい事があるなら言えば?」

「あら、そう?」

「あー、…ったー、あーあー」

「なんだよ、……え、もう食べたのか?お前早食いは駄目だってば。ちゃんと噛んでるのか?腹壊すぞ」


……………本当、伸に普段言われてる事をそのまま言うのね、当麻。


「あー、あーん、」

「ご飯前だって言っただろ?もう、駄目」

「あーっ」

「もう1袋くらいならいいんじゃない?その子も当麻だから2枚だけじゃ足りないのよ、きっと」

「……煩悩京で急成長させてるからエネルギーがいるんだよ、多分」

「それも少しはあるかも知れないわね」

「ナスティー……」

「ふふふ。…じゃあ、はい。どうぞ」

「あーとお」

「どういたしまして。でももうコレでおしまい、ね?」

「あい」

「おい、チビ、冗談抜きで本当にそれで最後だからな?伸が今、お前用のご飯作ってくれてるんだから。美味しいの食べ損ねても知らないぞ?」

「あい」

「本当、解ってんのかなあ、コイツ。…返事だけはいいんだもんなぁ……………」


……………ホンっト、伸に見せてあげたい遣り取りね…
この子を預かり続けてたら当麻の生活態度も改善されるのかしら?

…でも………きちんと寝て起きて間食もしない当麻って……………………変、よね。やっぱり。




*****
有事の際以外はてんで駄目なのが、ナスティの中の軍師のイメージ。