アンド、



あっれ?ナスティってばいつ帰ってきてたんだ?
つーか何笑ってんだよ、え、ナニナニ?何か面白いこと、あった?

え?洗面所?何、洗面所で何があんだよ。
えー、なんだよー教えてくんねーのぉ?
見に行きゃ解る?え、今行っても間に合う?それ。
あ、マジ?じゃ行ってくるわ。
へ?静かに?あー、うん。解った。

で、ナスティは何処行くんだよ?
あー靴、取り置きしてもらってんだ。まぁ子供の足のサイズなんかわかんネェもんなぁ。
可愛いの、何個か置いてもらってんだ。おうよ、気をつけて行ってきてくれなー!



…って、つい3分くらい前に言ったトコなんだけどよ。
………コレ、何、これ。


「だから、当麻。ばんざい、だ」

「じゃんまい」

「違う、そうではない。ばんざい。万歳だ。ば・ん・ざ・い」

「じゃんばい」

「惜しい!前後を入れ替えて!」


………どうしよう、俺、超笑いてぇんだけど…。

洗面所に行けって言ったナスティの言葉に従ってみりゃあ、オマエ…
パンツ1丁の当麻と、したいことは解る、うん、多分、着替えさせたいんだろうな、子供用の服を持った征士がいたんだけどさぁ…

何でコイツら、さっきから万歳のところで話がループしてんの?
いや、万歳させて服を着せたいんだろうな。
征士が持ってるセーラー服は俺の位置から見ても、かぶり、だ。
つーかTシャツ脱がせられたんなら、頭に服を被せて腕を入れてやりゃ本人も何となくわかるんじゃねぇの?着替えるんだって。
なのに何で征士のヤツ、バンザイに拘ってんだよ。

いや、そもそも万歳の形に拘ってんじゃなくて、何でアイツは万歳の発音に拘ってんだよ…笑いてー腹痛ぇー。


「当麻、”ばんざい”」

「あんざい」

「そう!あと一歩だ!!お前ならやれる!」

「…まんざい」

「何故そうなる!?」


……腹痛ぇ!!!マジ、ヤベェ!このままじゃ俺の腹筋がつる!!!!!つって、死ぬ!!!!!
つーか当麻のヤツ、「漫才」ってアレわざと言ってんじゃねーの!?征士ってば当麻に遊ばれてんじゃねーの!?

あー、マジ、もう駄目、ヤバイ。
ナスティ、何でこんな面白いモンを置いていくんだよ!
ヤベェ、何かビデオカメラとかねぇかな、コレ、撮っときてぇって、マジで!!


「ばんじゃ………あー」

「あとちょっとなのにどうした!?………って、秀!?貴様いつからそこにいた!!!」

「ヤッベ、見つかった!」


あーもー当麻が俺を指差しちゃうから…
って、ひー、征士のヤツ、超怒ってる!でもムリムリ、征士が真顔になればなるほど、さっきの遣り取り思い出して……


「ぶっ…ぶへへへ、…ぶはははは!悪い、さっきから見てた!!つーか、万歳くらいもうどうでもいいじゃねーの、だはははは!」

「何がおかしい!こういう事は最初からきちんと教えておかねば、子供のためにならん!」


いや、子供って……。


「だってソレ、当麻だろう?なぁ、当麻」

「うん」

「ホラ。当麻もこう言ってるんだからさ、いいじゃん、別に。当麻だし」

「そういう問題ではないだろう!そもそも万が一元に戻らんかった場合、当麻を育てなおす事になるのだぞ!」

「ったー」

「よしよし、抱っこは後でな。今はコイツと喋っているから少し待て」

「いや、それ、抱っこ求めてんじゃねーだろ」

「たー、あー」

「何を言うか。両手を上げているではないか。これは抱っこだろう。後でしてやるからもう少しだけ待て。いいな?」

「いや、何つーか…」


服、着たいんじゃねーかな……裸じゃ寒いだろうし。
表情も困ってるし、抱っこじゃねーだろ。
なに目ぇ細めて見てんだ。抱っことか、甘えられてるとでも思ってんのか?
つーか征士って…………ここまでアホだったっけ?


「…兎に角よ、当麻が風邪引く前に服、着せてやろうぜ」


折角自分から両腕上げてくれてんだし。







「よし、当麻。片方の足も上げろ」

「ほら、よいしょ、よいしょ……おー、出来た出来た!」

「たー」

「うむ。着替えられたな。よし、いい子だ」


やっとこさズボンも穿かせられたはいいんだけど……さぁ。
何つーか…何だろう、ナスティが選んできた服さぁ……。


「なぁ、征士」

「何だ」

「確認だけどよ、…コレって、男児用の服だよな?」


色は青いからまぁ男の子用かな?って思うし、セーラーだって水兵さんの服だと思えばちゃんと男の子用なんだろうけど、
なぁんかデザインが可愛すぎるんだよなぁ…
半ズボンも俺らの穿いてたような”半ズボン”ってのより、どっちかっつーとキュロットみたいだし。
今の子供って男の子もキュロット穿くんかな?俺、妹しか穿いてんの見たことねぇんだけど。


「ナスティが買って来たのだから私は知らんが、青いし男児用だろう?」


その辺に疎い征士じゃーこういう答えしかねーかぁ…。
伸に聞いたら解るかなぁ?
いや、それよりも。


「パンツ、何であんなチョウチンみたいなんだったんだろ…」

「ちょうちん?」

「ホラ、チョウチンパンツ。アレみたいだったろ?アレってさぁ……社会の窓、なかったじゃん?当麻、トイレどうすんだ?」


アレ出すところなかったらションベンすんのに、いちいち全部ズリ下ろしてやんのかな?


「それは私もナスティに聞いたのだが、子供は大概下げてしてしまうらしいから問題ないそうだ」

「問題が有る無しの問題かぁ……?……いや、必要ないならいいのか…」


でも何だろうな。何か…違和感が。
何つーか、何だろう、どっかで見たような……。

…………。
……………………ぁ。


「オムツに似てんのか」


膨らみ方が。
アレ?そういえば…。


「当麻ってトイレ、大丈夫なのか?オムツじゃなくて」

「それは大丈夫だ。自分で出来る」


って何でお前が誇らしげなんだよ!
なぁ、マジ、征士ってこんなんだったっけ?


「む、いかん。鉢植えに水をやらねばならん。秀、悪いが当麻を少し見ていてくれるか?」

「え?ああ、そりゃ全然いいけど。俺、下に兄弟いるから子供の相手くらい慣れてるし」




じゃあ、って言った征士がちゃっかり当麻のほっぺを突付いて行ったのを見送って(こういう征士って何かかなり気持ち悪ぃ)、
取敢えずリビングに当麻をつれてきてみた。

は、いいけど、さて何して遊ぼうか。


「当麻、何して遊ぶ?」


こういうのって小学生ん時以来の気がするな。
へへ、何かちょっと楽しい。
でも何したらいいんだ?
タカ鬼は、まず高いとか低いとかの概念がないだろうし、色鬼だって色の名前が解ってるかどうかが怪しいしなぁ…
どうしよう?
ここはやっぱシンプルに…


「鬼ごっこ?」

「おにー」


…いや、駄目だ。2人でやっても面白くねぇ。
せめて…そうだな、白炎の散歩に行ってる(つーかいっつも思うけど、俺、コレは白炎「が」遼「を」散歩に連れてってくれてる気がしてなんねぇんだよな)
遼が戻ってくるか、純が遊びに来てくんねぇとなぁ。
普通に2人で追いかけっこした方がいいかな?
それなら外の方がいいかな。

でもなー……征士から当麻を取り上げた時の伸の剣幕からいって、下手に怪我させたら大目玉喰らいそうだからなぁ…
こればっかは記憶にあるもんな。
弟との追いかけっこの途中でアイツこかしちまって、母ちゃんに超怒られたの。
ま、ありゃコケタのが階段だったから怒られたんだけどさ。
家の方針は、子供は子供らしく外で遊ぶ!だからな。外で普通に怪我するくらいなら滅多に怒られなかったし。
でも伸はそうはいかなさそうだもんなー…
あーヤダヤダ、伸に怒られるのはゴメンだぜ。アイツ、地味に怖いんだよ。

でもなー、マジ、何しようかなー。
2歳くらいの子供相手に何して遊んだらいいんだ?


「うーん……当麻、何したい?」

「んー?」


あ、駄目だ。俺が考えてるポーズを真似してやがる。
可愛いけどコレじゃ話が進まねぇや。
しっかし当麻、可愛かったんだナァ。
いや、今でも地元の女子に会うとたまに言われるけどよ。羽柴君って可愛かったヨねって。顔はな、って俺は答えるけどさ。
でも実際、可愛いなコレは。はは、弟連中の小さい頃、思い出しちまうなぁ。
すぐ下のは歳が近かったから喧嘩の方が多かったけど、下の方になると歳が離れてるからなぁ、本当、可愛かったんだよなぁ。
…ま、今はいっちょ前の口を利くようになっちまったけどさ。

って、あ!そーだ!!


「当麻、”高い高い”してやろうか?」

「たあいたあい?」

「おうよ!高い高い!…こうやって、………おーら、たかいたかーい!」

「たーいたーい!」


おー!喜んでる喜んでる!
やっぱ天空は飛ぶのが好きなんか?
ま、子供ってコレ好きだよなー。
俺も一番下の兄弟にもなれば体格差があったから、これ、してやれたんだよな。
懐かしいなー!


「そーれもういっちょ、たかいたかーい!」

「たーい!たあーい!」

「もっと行くぞー!っせーの、たかいたかーー、…っあ!」


やっべ!勢い付けすぎて天井にぶつけちまった…!


「……ぅ…」


やべー!やべー!!超やべーって、泣きそうだ、どうしよう、当麻、泣きそうだ!!!


「ぅう…」


あわわわ、充電してる充電してる!
っちょ、マジ、どうしよっ!?


「と、とと、とーま、ほら、痛いの痛いの、とんでけー!…な?ほら、な、泣くな、な?男の子だろ!?」

「う、…うう……」


あー、ヤバイ!目、超潤んできてる…!!!!


「とーま!とーま、ほら、ほーら、ゴリラの物真似してやろうなー?ウッホウッホ、ほ、ほら、とうまー、ゴリラだぞー」

「……キミ、何してんの」

「っぎゃあ!!」


出た!出た、一番来て欲しくなかった大魔神・伸様!


「ちょっと、当麻、どうしたの!?大丈夫!?秀、キミ、何したの!!」

「え、いや、その……高い高いをしてやってたんだけど…」

「何?まさか勢い余って天井にぶつけたとか言わないよね!?」


イエス、ジャスト正解ですぜ、水滸様……


「秀、まさか、キミ、ぶつけてないよね?天井に、こんな小さな子供を…!」


うっわ、ヤッベ、当麻のことより今、俺の身が超危ねーっ!!!!
つーか、伸、冷静に考えてくれ、ソレ、小さいけど、当麻!
ちょっと頭叩いたくらいじゃピクリとも起きねぇ、あの、当麻!!

って、駄目か!きかないか!


「ねーぇ、しゅう?」

「……………………って、…てへへ…へへ。…いや、でもホラ、と、当麻、結局泣いてないし。なー?当麻、偉いぞー」


目は潤みはしたけど、ぶっちゃけコレ、伸の気迫に気を取られて泣き止んでるよな…


「ホラ、と、当麻が泣かないうちに、他の事で気を逸らさねーと、…マズくね?」

「なに話を逸らそうとしてんだい!!!」


きたっ水滸様の雷!
っひー、悪い、当麻、遊んでる場合じゃなくなった!
俺、今から逃げるから、そーゆーコトだから!
頭のイイお前なら、解るよな?

っつー、わけで。


「じゃーな!当麻!!!」




*****
脱兎の如く。