アンド、



あービックリした。
1回目起こされた時はチビが目の前にいてビックリ(半分寝てたけど)したけど、2回目は伸がいてさ…何か解らんけどちょっと怒ってた。
いや、解るよ、怒る理由は何となく、常識的に考えて一般的な理由は解るんだけど、…解らん。

推測だけど、遼と秀に預けたチビが急に居なくなったから皆で探し回ってたんだよな?
そのチビが結局屋敷で俺といて、しかも寝てたから怒るんだよな?普通は。
心配したんだよって、チビに教えるように怒るよな?

それなら解るけど、何で征士が怒られたの?

征士がガラス戸を閉めたのがどーのこーのとか、帰ってたなら連絡しろとか…サッパリ解らんわ、俺には。
何で帰ってきたくらいで征士が連絡しないと駄目なんだ?そういう決まりっていつできたっけ??
で、征士も征士で何か子供を1人にしてとか無用心だとか言い返してたけど、傍から見てても2人の争点がちぃっとも噛みあってない。
あいつら、何で喧嘩腰なワケ?
寝起きってのを抜きにしても俺には解らなさ過ぎた。(つーか寝起きなのに近くでギャーギャー騒がれて頭痛かった)
…んだけどチビが謝ってたな。
伸にも征士にも。で、帰ってきた遼にもナスティにも、それから2人を呼びに行かされてたっていう秀にも。
最後には白炎にも謝ってた。
アイツには伸が本来怒ってる理由が解ってたんだろうな。自分が居なくなったのが悪いって。
だから謝ってた。

めんたい、って。

………。うん、言葉がな、舌足らずなのはしょうがないよな、まだ子供だし。
言えない言葉もいっぱいあるみたいだし。征士のこと、てーじって呼ぶくらいだし。
母さんも、喋る事に関しては俺は他の子と同じくらいだったって言ってたし、あんなもんだろう。

でも、めんたい、って………。
真剣な顔で頭下げてたから謝ってるのは解るんだけど、………めんたいってお前……。


ま、何にしても場も収まったからいいけどね。






さぁって……迦遊羅が迎えに来るの、確かこっちの時間で夕方くらいって言ってたっけな。
そろそろだな…………。
やっと解放されるよ、子守から!

そりゃアイツは俺のクローンだって言うから、俺じゃないけど俺なワケだし、鬱陶しいとは言い切らないけど、やっぱりちょっと面倒臭い。

征士のこと気に入ったみたいだったし、だったらちょっとくらい俺いなくなっても大丈夫かなって思って本を取りに部屋に行った、
ほんのちょっっっとの間で、もう泣いてんだぜ?信じらんネェよ。
トイレに行っても泣くからホント………トイレの前で待たせてたもん、さっき。
あーもー嫌だ!!トイレくらいゆっくりさせてくれよ!人がドアの前にいると思うと何かしにくいだろ!俺はデリケートなの!

…っはー、それを思うとせいせいする。
幾ら俺じゃない俺とは言え、面倒臭い!それに、ミルク臭い!!
こんな手間がずっとかかるんなら俺は一生、子供なんかいらないぞ!




「まー」


って思ってる傍から、登場だ。
自発的に俺から離れてどっか行ったなと思って楽にしてたってのに…


「あ、お前またミルク煎餅もらってきたな」


そんで食べながら俺の膝に乗るんじゃねーよ。
あーあーあー、買ってきてもらったばっかの本に食べかすが……!


「お前なぁ、」

「まー、あい」


って聞いてないし。
ミルク煎餅を俺にも食べろってのか。
もーぉ、何で?何か時間の進みと比例して甘えが酷くなってきてないか?コイツ。

ってイタイイタイ!腿の上に立つな…!俺の腿は肉が薄いの…!


「まー、あい、どーど」

「いや、いいって。お前食べろよ」

「まー、あーん」

「だからいいってば」

「まー、まー、どーど、あい、あーん」

「っもー…………あーん」

「あーん、…おいちー?」

「…………味が薄い」

「たーっ」


子供向けだからスゲー味が薄い……
ったく、何が面白いんだろうな、こんなのの。


「当麻ったら、そんな風にしないの」

「そんな風って?」

「眉間の皺よ。そんな風に寄せちゃ駄目」


……皺、寄ってた…?
そんなん無意識だから言われてもさぁ…


「……っていうかナスティ、もうチビにおやつ与えちゃ駄目だって。そろそろあっちに帰るんだから」

「どうしてもってオネダリされたんだもの。仕方がないじゃない」

「駄目だって、そうやって我侭を許しちゃ。これ以上は駄目って言うのを覚えさせないと、甘えたになったら困るじゃんか。
今も見てくれよ、コイツまた俺から離れなくなってきた」

「帰るから、こそよ」

「何が?おやつ?」

「そうじゃなくて、その子が当麻に甘えてるの、よ」


…………?


「よくわかんないんだけど」

「きっとその子、そろそろアナタと離れなくちゃならない事を何となく理解してるのよ。だから少しでも甘えてたいのよ、きっと」

「そういうモン?」

「そういうモンよ。だって私のところに来て、みんなの分のミルク煎餅を持って行ったわよ?」

「え、」


そーなの?お前。
って見てみてもさっきと同じ顔(何が楽しいんだか解らん顔だ)でコッチ見てるだけだから、ホント、解んない。


「きっと皆にそうやってあげて回ったのよ」

「じゃ、ナスティも貰ったの?」

「ええ、最初にね」


可愛かったわよ、って笑うけど………あ、そう。
そんなん言われてもどうリアクションしていいのか解らんわ。
何か今日はそんなんばっかだな。
解らんことばっかり。

って、あ!


「こら、チビ!お前今ヨダレだらけの手で俺の髪触っただろ!」

「あー」

「もー……抱っこなら抱っこって言えよなー」

「だっこー」

「もうしてんだろ?……満足か?」

「たー」


あー喜んでる喜んでる。
…………くそ、一瞬だけ嬉しい気がした。………何か………悔し…っ!


夕方かぁ……

そっかぁ…コイツ、もうすぐ帰るんだよなぁ…
大丈夫かな、帰る間際に大泣きしたりして迦遊羅、困らさないかな。
あっちで勝手にいなくなったり我侭言って那唖挫や悪奴弥守に迷惑かけないかな。(螺呪羅は知らん。勝手に困ってろ!)
好き嫌い言わずにちゃんと食べるかな。
ちゃんとあっちの役に立てるかな。
夜1人で寝れるかな。ちゃんと1人でも……泣かずにいれるかな。


「…まー?」


っわ、ビックリした。
考え事してたら急にコイツ、人の顔覗き込むんだもん。
鏡とは言わないけど自分と同じような顔してるのが急に目の前に来たら、やっぱ心臓に悪いな。


「…………何だよ」

「だっこ、だっこ」

「だから、してんだろ」


もう本を読むのもやめたし、ぎゅうぎゅう抱っこしてやってんのにこれ以上何をどうしろって言うんだよ…


「まー、なー?」

「なー?って何が、なー?だよ」

「まー、だっこ」

「してるだろって………」


腿の上に立たれたまんまで痛いし、涎だらけの手で頭触られたまんまだし…
それに対して文句を言わない時点で俺にしちゃ随分とサービスしてるつもりなんだぜ?
なのに今以上に抱っこって、どうすりゃいいんだよ…

…………。
…………………?


「まー、だっこ」


……あぁ、そういう事…かな?

俺がコイツを抱っこしてるのと同じように、コイツもコイツなりに俺の事を抱っこしてくれてんの、…かな?
チビのくせに…
小さい身体の癖に、いっちょこ前に。




「まー」

「んー」

「まー、まー」

「んー………うん、ありがと」



帰っちまうんだな。

俺だけど、俺じゃない変なチビ……あぁ、あとちょっとしたら…帰るんだな。


ちゃんと、帰れるのかな。
俺、ちゃんと帰らせられるのかな。




*****
刻一刻と、約束の刻限。