アンド、
どんだけ探しても、どんだけ呼んでもチビの返事すらねぇ…!
横道も草叢も探したのに姿も、足跡もネェってどーいう事なんだよ!
「…ねぇ、このまま4人で同じ場所を探しても意味が無いんじゃないかしら…」
「どういう事?」
「……あ、そっか。確かに分散したほうがいいかも」
「でも完全にバラバラになって探しても、もし万が一何かあった時の対処ができネーと困らねぇ?」
考えたくはないけど、大怪我してたとか、厄介な虫に刺されて痙攣起こしてた場合とか…俺は正直、対応する自信がネェよ…
「うん、じゃあ二手に分かれよう」
その伸の言葉で、遼とナスティ、それと俺と伸の2組に分かれた。
探す場所もこんだけ山を探していないんだから、若しかしたら屋敷近辺で見落とした可能性を考えてこのまま山を探す組と、
屋敷に戻る組に分けた。
山に残るのは、山に慣れてる遼とナスティ。
屋敷に戻るのは俺と伸になった。
「…兎に角、見つかったらすぐに連絡。ね」
「了解」
「行こう、ナスティ。白炎、お前もこっちだ」
………?
なぁーんでか、さっきから白炎が頻りに屋敷の方向を気にしてんだよなー。
…やっぱし屋敷近辺でどっか見落としてんのかも?
「ほら、秀。ボサっとしてないで早く戻るよ!」
「お、おお、解った。悪ぃ」
伸はさっきからずっと顔色が悪い。
チビのこと、気に入ってたからかなって思ってたけど……コイツの親父さんって、事故で亡くなったんだっけ?病気だったっけ?
何にしても誰かを失う事にコイツはコイツで結構敏感だよな……
「大丈夫だって」
「………何が」
「大丈夫、チビは怪我も何もしてねーって」
「…………………。まだ判んないのに無責任なこと言わないでよ」
「でも大丈夫だって、絶対」
「根拠もないのに。この能天気」
「…そりゃ…言い返せねぇけどよ……」
おー可愛くネェ。
そう言われちまうとコッチはどうしようもねーじゃん。
「………でも」
「あん?」
「確かにそうだね、焦っても何にも変わらないんだから大丈夫って思わなきゃ」
…あ、笑ってら。
もう大丈夫かな…?いや、まだチビ見つかってないから安心できないけど。
「それによく考えたらさ、」
「…なんだよ」
「あの子、結局は”当麻”なんだもんね」
「…………。……そうだったな」
だと思ったら俺もなぁんか急に大丈夫な気がしてきた…
だって当麻だろ?…”当麻”だもんなぁ…
それに白炎が屋敷の方を気にしてるってのは若しかしたら、マジでどっか見落としてるだけかも知んねーしな。
案外、どっかで寝てたりして。…ただし、泣きつかれて、だけどよ。(そう思うと無事でもやっぱ可哀想か…)
「ちょっと、秀!」
「…お!?」
いっけね。考え事してたら道間違えた。
あぶねーあぶねー。
チビ見つける前に俺が捜索されるトコだった。
よし、振り出しに戻って………
………あれ?
「なぁ、伸。…俺らってガラス戸、閉めてきたっけ?」
「………いいや」
「閉まってる、よな。どう見ても」
「閉まってるね」
屋敷に戻ってみりゃ、そのまんま飛び出して来た筈なのに妙に綺麗に戸締りされた感がある。
閉めた記憶がないのに妙だなって思ってガラス戸を引いてみたけど、鍵までかかってやがった。
記憶がないだけで閉めたかとも一瞬思ったけどやっぱ違うな。
鍵は流石に外からはかけらんねぇ。
って事は。
「征士が帰ってきたか、当麻が起きたかのどっちかだろうね」
「だな」
伸から聞いた話じゃ征士は本屋に行ってたっていうじゃねーの。
その征士が帰ってんならアイツにチビ見なかったか聞けばいいし、当麻だったら万々歳だ。
アイツにチビ呼ばしたらすぐ出てくるんじゃないかな。それに泣き止ませることもできるし。
玄関まで回りこむのは面倒だけど、しょうがねぇ。
………って回りこんだんだけどな。
玄関、開いてる。当然だけど。
征士の靴もある。当麻の靴もある。
やっぱりガラス戸を閉めたのは征士みたいだ。
じゃあ何で気配が薄いんだ?
人はいるっぽいけど、何でこんなに空気が動いてないんだ??
「………せーじー」
「当麻、起きてるー?」
「………………」
「………………」
…………。
返事、なし。
「…どういう事だと思う?」
「俺に聞かれてもよ…」
当麻は起きてないにしても、征士はどうしたんだ?
アイツ、結構耳いいし今は家中静かだからさっきの声でも充分気付くと思うんだけどな。
部屋にいたとしても、な、勿論。
「…………気配はある…よね?」
「ううん…すっげー微かに、だけど?」
少なくとも1階じゃねーな。
「2階、探すか」
2階、やっぱ探すならアイツらの部屋からだよな。
「邪魔するぜー」
一応声かけて入ったけど、やっぱり征士の姿も当麻の姿もねぇ。
でも征士の財布は置いてあった。あと本も。
って事ぁ1回帰って来てる。
で、外には出てない。
じゃあ、何処だ?
「当麻のベッドに本があるね」
見たことねぇ本だな。
開いた形跡もネェ…って事はこれが頼んでた本か。
……何この分厚い本。辞書じゃねーの?本なの?
つーかこんなクソ重たいモン、よく平然と人に頼めるなー、アイツ。マジ、その神経の太さにビビるわ。
いや、それどころじゃなかったな。
「当麻、寝てて起きたんかな?」
「いや、ベッドの皺の感じからしてココで寝てないよ、アイツ」
「マジかよ。んじゃ何処だ?書斎か?」
「うーん…いや、ないだろうね。寝るつもりで書斎に行っても眠れる場所がないもの」
それもそうか。
じゃあ、何処だ……?
征士を探すべきか?当麻を探すべきか?それとも、チビか?
「兎に角、上から順に探せる場所を全部探そう。この階を先に見て、1階、かな」
「でも1階は俺ら帰ってきた時にざっと見たろ?」
「お風呂場やトイレは探してないだろ」
「そっか」
他にどっかあるかな。
洗面所、2階のトイレ、ナスティの部屋に俺らが使ってない来客用の部屋、それから納戸に………
あ。
「なぁ、伸。屋根裏は?」
「え?」
「屋根裏。上から順なら、この階じゃなくて屋根裏だろ」
使わなくなったものを放り込んでるから、若しかしたら毛布とかタオルケットなんかがあるかも知れないし。
そういうモンがありゃ当麻なら充分に眠れちまうだろうし。
「………でも当麻は兎も角、チビはそこに行けないでしょ」
「あー…………」
そっか。
…………。うん?いや、待て待て。
そうと決め付けちゃマズくね?
「征士」
「征士がなに?」
「征士、帰ってきてんだろ?これは俺の単なる予想だけどよ、当麻が屋根裏に居て、征士がそれを知ってて。
で、泣いてるチビを見つけたら…屋根裏に連れてっかねーかな?」
「…それも……そうだけど…」
「けど、何だよ」
クソ、伸ってば超慎重だな。
つーか俺の行き当たりばったりに近い勘じゃ信用してもらえねーってか?
「その場合、上から音がしないのが変じゃない?」
「おー…………あ、アレは?当麻が寝てるから静かにしてるとか」
「……………なるほど。キミにしちゃ上出来な推理だね」
どーゆー意味だよ!
俺ってそんな馬鹿なの?ねぇ、俺、そんなにすげー馬鹿?
………まぁ、……馬鹿だわなぁ…
「ほら、秀。行くよ」
「………はいはい」
あー馬鹿って悲し。
2階の廊下の突き当たりにある収納階段を引っ張り出して、足音を忍ばせて上る。
当麻って寝起き、すげー機嫌悪い時があるからなー…下手に起こして怒られたくネェんだよ。
「……どう?」
「んー…………………あ、」
いた……!!!
それも、
「3人ともいた…!」
チビも当麻も征士も、みぃーんな、屋根裏にいやがった!
つーか人に散々心配かけておいて何寝てんだよ!!!
「秀、早く上がってよ!」
イッテ!ケツを突付くな!
ったく、伸のヤツ、チビの事となるといつも以上の容赦ねーの、気のせい?
狭いマットレスに3人並んで、えぇっとこういうの、何て言うんだっけな?
「………人の気も知らずに川の字に寝て…」
そーそー!ソレだ!川の字!!
マットレスから落ちねーように何かしっかりくっつきあって、征士、チビ、当麻の順に寝てやがる。
…あ、でも川の字っつーのもだけど、何だっけ、ロシアの人形。アレみたいにも見えねぇ?
チビを当麻が抱っこして、その当麻をチビごと征士が更に抱っこ…?してんのか、こりゃ。落ちねーように抱え込み気味ではあるな。
えーっとロシアのアレは何つったっけな、ま、まま、…マト……トマト人形?じゃねーな。わかんね、忘れた。後で誰かに聞こっと。
ま、何にしても気持ちよさそーにスヤスヤスヤスヤと……
へへ、何か微笑ましーってーの?
チビと当麻って当たり前だろーけど、寝顔、同じなんだな。
つーか征士も昼寝するんだな、ちょっと意外。
「な、伸。ちょっとオモシロ………伸?」
ちょ、おい、何だよ、大丈夫なのかよコイツしゃがみこんでるけど…!
「伸、おい、なぁ…ちょ、……大丈夫か…?」
「……………駄目、」
「え!?」
「駄目、安心したら力が抜けちゃった……秀、悪いけどナスティたち呼んできて…」
*****
へなへな。秀が言いたいのはマトリョーシカ。