羽柴歯科へようこそ



「明けましておめでとうございます」

「あけましておめでとー。…って何で笑うんだよ」

「いや……年末の事を思い出して」

「年末?あぁ、イブのこと?」

「そうだ」

「………。…笑うようなこと、あったか?」

「何と言うか……まさか先生があんなに大食漢だとは思わなかったのでな」

「それで笑うか?普通」

「いや…おかしいのではなく、面白いと思ったのでつい」

「えー、やっぱ伊達さん、意味わかんねぇな」

「それは先生の方だろう。…どう見ても私より細いのに、その身体の一体何処にあれだけの食料が入っていくのか不思議でならん」

「胃袋に決まってんだろ」

「そういう意味ではない」

「解ってるよ。…まぁ燃費の悪い身体だって昔から言われてはいるけどさ」

「そうだろう」

「呆れた?」

「いや。ただ驚きはした」

「うっそだー。伊達さん、ちっとも表情変わってなかったじゃん」

「本当に驚いたのだがな…」

「どーだか」

「信じてもらえないのか」

「だって本当に全然表情変わってなかったんだぜ?伊達さんさ、目ん玉ひん剥く程びっくりした事ある?」

「あるに決まっているだろう」

「………想像つかねー」

「失礼な。私だって人間だぞ」

「それくらい知ってるよ」

「ただ昔から無表情だとは言われる事がままあったな」

「無表情?」

「ニコリともせんから、愛想がないとも」

「そうかな」

「?意外な反応だな」

「伊達さん、表情はちょっと硬いけど愛想は悪くないと思う」

「そうなのか?」

「うん。あれ?違うのかな、俺はそう思ってたけど」

「…自分の表情などいちいち確認などしないから私自身にはわからん」

「そうなんだ。じゃあ今度からそう言われたら愛想くらいあるって言ってやれよ」

「そうだな。そうさせて頂こう。歯医者が証人だと」

「そうそう、言っちゃって。そんでその歯医者見たきゃウチに来いって言っといて」

「営業か」

「あ、でもこの時間はヤメて」

「何故」

「俺の仕事が増える。親父とか他のスタッフにも割り振らなきゃ俺のプライベートな時間がなくなる!」

「ああ、ゲームをする時間か」

「他にもするって」

「例えば?」

「……………………ネット、とか…」

「先生」

「……何だよ」

「不健康だな」

「うるさい!」

「あれだけ食べておきながら運動もせず、何故太らんのだろうな」

「…体質なんだよ。筋肉も贅肉もつきにくいの、俺」

「ほお」

「言っとくけどメタボでもないからな」

「本当に?」

「本当だって!ほら!」

「……あぁ…本当だな。しかし先生」

「何」

「腰、細いな」

「……結構気にしてんですけど」

「そうだったのか。すまない、悪気があって言ったのではないのだが…」

「そりゃ伊達さんみたいにガッシリした男らしい体つきじゃないけどさぁ……ってくすぐったい!腰、触んなよ」

「すまん、つい何となく」

「って、やっぱ表情変わんねーなぁ」

「何故拗ねる」

「拗ねてないけど……そうだ、伊達さんさ、絶叫マシーンとか平気?」

「…まぁ人並みには」

「バンジーとかは?」

「やった事はない」

「うーん…」

「何だ、先生はお好きなのか」

「割とね。特にバンジーの空中に放り出される感じは好き」

「ほお…しかしそれがどうかしたのか」

「伊達さん、絶叫マシーンとか乗っても表情ないのかなって」

「………は?」

「ちょっと試したいっていうか、見てみたいなぁ」

「私が絶叫マシーンに乗るところをか?」

「うん」

「見ても何も面白くないと思うぞ」

「面白いだろ」

「何故。普通に叫ぶか、それか私の中では驚いていても大して表情に出ていないだけだ」

「だから面白いんじゃないか」

「だから、何故」

「普通に叫ぶ伊達さんってのも見てみたいし、皆が叫んでる中、無表情のままの伊達さんってのも見てみたい」

「私はモルモットか」

「実験じゃないってば。試してみたいだけで」

「大差ない。あるのは先生の好奇心だけではないか」

「な、伊達さん、絶叫マシーン乗ろう」

「……………………」

「駄目かなー」

「……………………そうだな」

「いい?」

「どうせなら普段、不健康な先生が沢山歩き回るような大型のテーマパークなら構わん」

「げー、ソコに落ち着くのかよ」

「一石二鳥ではないか」

「そりゃそうだけど……まぁ遊園地でもどこでも結局1日遊べば結構歩くか」

「ああ」

「そうだな、…じゃ、行く?」

「ああ。いつなら空いている?」

「俺はうちの休診日ならいつでも空いてるよ。伊達さんの休みは?」

「なら今週の日曜でどうだ」

「あ、ゴメン、その日は駄目だ」

「さっきいつでも空いてると言っていたではないか」

「その日はホント、ゴメン、駄目」

「何か予定があるのだな」

「うん」

「聞いても構わないのなら教えてくれ」

「……………いや…」

「…何だ、デートか」

「まさか。相手いないって。…その…」

「………」

「…オンラインゲームで、……パーティ組む約束してるから」

「…………………………来週の日曜、歩きやすい靴で来い」

「……ワカリマシタ」




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デートの約束。