羽柴歯科へようこそ



「はい、じゃあコレ領収書」

「ありがとうございました」

「はいはーい。っていうかさぁ、伊達さん、今日って日に歯医者とか寂しすぎない?予定ないの?予定」

「……予定?」

「クリスマスイブだよ、クリスマスイブ!それも金曜日!明日は土曜だぜ!?」

「それは知っているが…何故、予定…」

「伊達さん、誰かから誘われたりしただろ?それかさ、誰かと過ごそうかなーとか」

「………………。面倒だから、此処を予約したのだが…」

「えっ珍しい曜日の予約だと思ってたら、そんな理由!?」

「…迷惑だったか」

「…………いや、まぁ……迷惑じゃないけどさ」

「………」

「いや、……伊達さん、ソレ、寂しすぎるだろー…まだ25なのに」

「何処でどう過ごそうと私の勝手だろう」

「そりゃご尤もで。でもまだ若いのになー」

「…先生は、誰かと約束があったのか?」

「いーや、全然。そもそも相手が居ないし」

「ではお互い様ではないか」

「ま、寧ろイブに一人で居る言い訳できたしね、仕事だからって。その分、俺の方がお得かもよ」

「私だって断る理由が出来たのだから、得していると思うぞ」

「アハハ、伊達さんはモテそうだからなー。そんなに面倒?」

「特別何かを思ってもいない相手と過ごして気苦労を増やすのは面倒だ」

「あ、その気持ちは解る。どうせ同じ過ごすなら気楽な相手がいいよな……さてと…なぁ、今日って何処行ってもカップルばっかかな」

「何処か行きたいところでも?」

「いや、メシ。まだ食ってないから」

「?先生はご家族と同居だろう?」

「そうだけど?」

「夕食はいつも準備してもらっていると聞いていた気がするのだが…今日はどうした」

「あはははは…………はぁ…、あのね、ウチの両親は本日、クリスマスイブのため張り切ってお高いホテルを予約して
そこで2人仲良くディナーして、あまーいイブを過ごすんですってよ」

「…………なるほど」

「で、明日はお休みです」

「病院が?」

「いいや通常通りやってますとも。院長夫妻がお休みです」

「では明日の患者の担当は…」

「殆ど全部、俺なんだろうね」

「それは…………お疲れ様です」

「今からそんなん言わないでくれよ」

「しかし両親の仲が良いのは、素晴しい事だと思う」

「それで明日の仕事を押し付けた息子の飯さえ用意してくれないって言うのは、流石にどうだ」

「まあいい大人なのだし…」

「そうだけどさぁ……だからってイブに自宅で1人飯とか辛くない?」

「一人暮らしの私は今日帰ればその状況だと知った上での発言か?」

「あっ、そういうつもりじゃなくってさ…でも俺、料理らしい料理ってカレーくらいしか出来ないしなぁ…」

「今から作るのもしんどいと?」

「うん。…あー、大体さ幾らイブだからってスタッフ全員、早い時間に帰す事ないと思わないか?
俺、夕方の6時からずーっと1人でやってんだぜ!?」

「此処は確か8時が最終ではなかったか?」

「そうだよ、だから伊達さんがくるまでの時間、全部1人で受付して診察して会計して…」

「出来るものなのか?」

「今日は患者さんも少なかったから何とかなったんだよ……合間に掃除できるくらいの余裕はあったし」

「それで今日は妙に片付いている印象があったのか」

「そ」

「ならいっそ今日は6時までの診察にすれば良かったのではないのか?」

「ほら、伊達さんの予約があるし、俺は息子だからって理由で最後まで居残り」

「それは悪い事をした」

「何で謝った?」

「私が予約しなければ先生も早々に休めたのでないのか?」

「まさか!よっぽどの事情じゃない限り診察時間内は通常通りしとかなきゃ、もしもの飛び込みとかあるんだって」

「そういうものか?」

「うん。それに伊達さん来なかったらだーれも来ないであろう病院に、1人ポツンと居る破目になってたから寧ろソレは救い」

「そうか」

「そ。あー、ホント、何処行ってもカップルだらけかな…ヤだなー、そんなトコに1人食いに行くの」

「ああ……では一緒にはどうだろうか」

「…伊達さんと?」

「ああ」

「野郎2人で?」

「嫌か?」

「んー………嫌じゃないな。伊達さんは?」

「イブに自宅で1人飯というのは辛いものだと言ったのは先生の方だろう?」

「………伊達さんって案外根に持つなー。ま、そういう理由なら利害一致、男2人で御飯と行きますか」

「ああ。……先生、何か食べたいものはあるか?」

「えー…特にないけどなぁ……旨くてカップルが居ない店がいいかなぁ、やっぱ」

「旨い店は今日大概人が居るのではないか…?だから逆にそういう店に乗り込むのも面白いかもしれんぞ」

「男2人で?」

「男2人で」

「どんな自虐ネタだよ」

「むさ苦しい会話でもしてカップルの雰囲気ぶち壊しに行くのも悪くないだろう」

「性格悪ぃ!…でもそれ、乗った」

「先生も大概な性格だな」

「ふん。じゃあさ、どっかお高いお店行く?」

「いや、若いカップルの居る場所にしよう」

「じゃあ値段よりもお洒落で…ワインとか美味しい店にしようか」

「解った」

「心当たり、あるんだ」

「いや…………雑誌でたまたま見かけて、気になっている店が1軒あるだけだ」

「なるほどね。じゃ、ソコにしよう。俺、コレ片付けて着替えてくるから待合で待ってて」

「いや、車を表に回しておこうか?」

「あ、お願いできる?じゃ、急いで着替えてくるわ」

「ああ、ゆっくりでいい。慌ててコケられても困る」

「はいはい、じゃ、そーしましょ」




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クリスマスイブにデート。日記に書いていた小ネタを加筆修正。