羽柴歯科へようこそ
「伊達さん、相変わらず綺麗な歯だなぁ」
「………………………」
「あ、伊達さんの睫毛、実は長い」
「………………………」
「伊達さんって結構首しっかりしてるな。鍛えてんの?」
「………………………」
「眉毛の中にホクロ発見っ」
「………………………」
「はい、じゃあシート起こすから口濯いでー」
「………………………。先生」
「んー?」
「治療中、私は口を開けているわけだが、先生の問い掛けにはどう答えればいいのだろうか…」
「へ?」
「先ほどからずっと何事か喋っているだろう」
「あ」
「何だ、あ、とは」
「いや、…別に思った事を言ってるだけだから……答えてくれなくてもいいんだけど」
「………独り言なら声に出さずにしてもらえるか」
「何で」
「……どうしていいのか困る」
「そう?俺としては本当の事を言ってるだけだから別に困らしてるつもり、ないんだけど」
「困る」
「困るのか」
「困る。こう…居た堪れない気持ちになるから、困る」
「何だそりゃ」
「…先生は割とお喋りな性質だな」
「え、俺、喋んないよ」
「………先程の独り言を録音して聞かせてやりたい衝動に駆られるは気のせいだろうか」
「いや、本当。俺、人見知りだし、普段そんなに喋らないって。…好きなこと以外は」
「そうは見えんが」
「うーん…伊達さん、喋りやすいんだよな。多分」
「私がか?」
「何だろ、何言ってもOK、みたいな」
「どういうイメージだ、それは」
「言われない?話しやすいって」
「全く」
「うそ、俺、凄い喋りやすいんだけど」
「そう言われるのは初めてだ。寧ろとっつきにくいと言われる」
「ええええ、そうかぁ?……とっつきにくい、ねぇ…」
「らしい」
「へえ……そうなんだ」
「ああ。それよりも先生」
「ん?」
「睫毛なら先生も長いぞ」
「…え、…そ、そお?」
「それに量も多い」
「………へーぇ…」
「髪と同じで青みがかっているから、近くで見るととても綺麗だ」
「………………そぉ…」
「それに先生は自分の童顔の原因を、タレ目と言っていたが」
「……うん」
「目が、大きいからだと思う」
「…そうかな」
「大きいし、睫毛が多くて長い。顔が小さいから余計にそれが際立つのだろうな」
「う……うーん……」
「それに先生は爪の色も形も、とても整っている。女性的というわけではないが、つい見惚れるな」
「…………だ、伊達さん」
「何だ」
「…………………俺が悪かったから勘弁して」
「ふん、思い知ったか」
「…くそ…伊達さん、性格悪ぃ……」
「普段私の事をイイヒトだと言っているのは誰だ」
「そうだけどさ………伊達さんって結構そういう悪ノリとか悪ふざけ、好きだよな」
「そうでもないと思うが」
「うそつけ!」
「いや、本当だ。昔からこういう事をやろうなどと思った事はない」
「じゃあ俺へのコレは何なんだよ」
「…さぁ?それこそ先生が、からかい易いのではないだろうか」
「不名誉っ」
「何も苛めたいわけではないのだ。ただ…つい」
「ついって……何だよソレ」
「まぁ先生が私を話し易いと思うように、私も先生相手だとふざけたくなるのだろうな」
「……ふーん。そういうモン?」
「ああ」
「ふーん」
「気を悪くしたか?」
「……………いや、そうでもない、かな」
「そうか」
「何か伊達さんが年下らしく見えて、ちょっと可愛かった」
「………普段は相変わらず老けて見えるという事だな」
「そこまでは言ってないけど…」
「けど?」
「………………否定は、しないかな」
「………………………………」
*****
じゃれあいます。