羽柴歯科へようこそ
「じゃあ伊達さんって此処に車で来てんのか」
「えぇ、まぁ」
「伊達さん、車かぁ…」
「……何だ、改めて」
「いやぁ………似合うだろうなって」
「そうか?」
「うん。バイクより、絶対、車。それも高いヤツ」
「………先生の中で私は一体どういうイメージなんだ」
「そういうイメージ」
「私だって自転車くらい乗るぞ」
「っえー……あ、でもソレもソレですげー見たい」
「……そう言われると何だか嫌だな」
「自分で言っといて何を今更。そうだなー24インチの自転車を、サドルめいっぱい上げて買い物袋を前籠に入れてたら…」
「こら、顔が笑っている。どうせ面白いとかそういう考えなのだろう」
「…バレたか」
「だが先生ならそういうのも可愛いのかも知れんな」
「伊達さん、オレ、おっさん手前なんですけど」
「おっさんと言うほどの歳でもあるまい」
「でも30手前の男に可愛いって表現はちょっと…」
「見た目の問題だな、これは」
「…………だからママチャリ姿が可愛いオッサンってどうよ」
「先生なら、という話だ」
「うーん……微妙」
「先生は車は?」
「俺は持ってない。免許はあるけど、乗ってるのは400のバイク」
「バイク?」
「うん。…ってなに、その不安げな顔」
「……事故とか」
「言っとくけど俺、無事故だからな」
「………」
「…素直に驚くの、ヤメてくんない?傷付くなぁ」
「すまない。…てっきり単独事故くらいは起こしてるものだとばかり……」
「伊達さん、最近容赦ないよな」
「すまない」
「…いーけどさ………どうせ俺は大人の男と程遠い男ですから」
「拗ねるな」
「いーっだ」
「しかしバイクとは……」
「だってさ、バイクの方が移動が楽だろ?」
「それはそうだが…しかし先生の方こそ車というイメージがあるな」
「……そう?」
「寒がりで暑がりがバイクとは意外だった」
「そういう理由かよっ」
「しかし実際、冬は寒いだろう」
「うん、寒い。だから手袋もゴツイのするし、結構服も着込…………っぅわ」
「…?…今、光ったな」
「………………………………うん……」
「雷か…少しばかり遠いのだろうか…あぁ、きたきた」
「うわああああっ!!!」
「………………………………」
「………………………………」
「…………先生…」
「……何だよ」
「雷が、怖いのか…」
「…悪かったな、いい大人が雷怖がって」
「別に悪いとは言っていないが、珍しいとは思う」
「ううう…俺、駄目なんだよ、雷」
「そのようだな」
「光るとこまではいいんだよ、綺麗だから。でもあの落ちるのが駄目だ」
「音が苦手なのか?」
「ううん、そうでもないんだけど…雷は……ほら、落ちると停電するだろ?」
「必ずではないがな」
「そうだけどさ、……停電されるとなぁ…」
「あぁ、そうか。治療中だと万が一の事故にも繋がるか」
「いや」
「?」
「ファミコン時代に、それでよくセーブデータが飛んだから…」
「……………」
「え、何その顔」
「……呆れているのだ」
「えー、伊達さん、そういう悲しい思い出ないわけ?」
「あるにはあるが、それで雷を恐れるほどにはならんだろう」
「っちぇ、何だよ。……でも雷は、ホント、光る瞬間だけは好き」
「それもよく解らんな」
「そう?だってこう…地面と空と間にピカって」
「光るな」
「うん。それ、綺麗だろ?つい見ちゃうんだよな」
「では雷は光る瞬間は見るが、その後は怖い思いをしているのか?」
「まーね」
「………やはり先生は面白いな」
「え!?そういう結論に着地する!?」
「大概の人間がそう感じると思うのだが」
「いやー、これ言うと寧ろ、えーって言われるか、何だソレって言われるから…伊達さんの方が面白いと思うよ、俺」
「私は至って普通だと思うぞ」
「変な人ほどそう言うんだよな」
「失礼な。それこそ先生だって変な人ではないか」
「俺は普通だよ」
「先程のご自身の言葉をそのまま返して差上げよう」
「…クソ」
「あ、また光った」
「え、ヤダヤダヤダヤダ……あーあーあー……わあああ!」
「………可愛いな」
「え、何か言った?」
「いや…」
「どうせ面白いとかそんなんだろ…チクショー…40歳になりゃ俺だってもっと大人になるわい」
「………30代で大人の風格を得るのは諦めたのか」
「計画は余裕を持って立てるべきだと思ったんだよ」
「なるほどな」
「笑ってんじゃねーよ。……それより伊達さん、傘、ある?」
「ああ、カバンに一応折りたたみを用意してある」
「そう。なら駐車場まで大丈夫だな」
「ああ」
「気ぃ付けて帰ってくれよ?」
「ああ。先生も気をつけて」
「俺ん家、裏だからすぐだし大丈夫だよ。濡れないし、濡れても大して問題ないし」
「いや、雷に驚いて転ばないように、という意味だ」
「そっちかよ!」
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診察後はいつも他愛のない話をしています。