羽柴歯科へようこそ
「あ!伊達さん!!イイトコにきた!!」
「いいとこも何も今日も予約をしていたのだから来るのは当然かと…」
「いいから!そんな事よりさ、ちょ、ちょっと聞いていい!?」
「答えられることなら…」
「あのさ…………伊達さんって、…今、幾つ?」
「幾つ、とは…年齢の事か?」
「そう!今幾つ!?来年、幾つ!?」
「………今年25で来年は26だが…」
「…………………」
「何だその顔は」
「………………マジかよ……」
「悪かったな、老け顔で」
「いや、老けてるとは思わないけど……落ち着きすぎ……」
「そんな事を聞くために今日は入り口に立っていたのか?」
「……………だって………え、ていうか、マジで……?」
「こんな事で嘘をついても仕方ないだろう。そもそも初診の際に記入したんだ。カルテにもそうあるだろう?」
「俺、カルテで患者の個人情報なんてそんなマジマジ見ないからさぁ…今日たまたま見てスゲーびっくりしちゃった…」
「だから最初に自分のほうが年下だと思うと言っていたのか」
「……………………うん」
「同い年と思うと言っただろう?信じてなかったのか」
「いや……」
「まぁそれだけ老けて見られているのだろうな、私は。実際家族からも言われているし」
「いや、それだけじゃなくて…」
「何だ」
「………………………えぇっと…」
「何だ、気になるな」
「………………自白するから、怒らないで聞いて欲しいんだけど…」
「言ってみろ」
「……………………俺ね、………来年、30」
「…………………………」
「…………………」
「……………それで、私より年下と思った、だと?」
「………………………………………スイマセンデシタ」
「つまり先生は今29歳で、私は30歳以上に見えるわけだ」
「……………………いや、…………ホント、スイマセン…」
「……………………………」
「……いや、ほんと、真面目に謝るって!ごめん!!」
「まぁ……実年齢より上に見られるのには慣れているとは言え…」
「ショックだよなぁ、やっぱ……ゴメン。でも弁解すると、老けてるんじゃなくて、すげー大人の男だと思ってたんだよ、ホント」
「そう言って貰えると少しは救われるが…」
「……ショック、だよな…」
「いや…確かにショックはショックだ。しかし…」
「?」
「私の事よりも…」
「??」
「…………先生が、年上だったことの方がショックだ」
「………………なんで?」
「……ゲームのし過ぎで倒れるような人なのにな」
「………申し開きの出来ないことです…」
「骨に夢中になりすぎてビンタされて」
「…仰るとおりです」
「好みのタイプさえ考えた事がない…」
「…………えぇ……ですよね」
「それに先生、童顔だな」
「………………………………それは親譲りの垂れ目のせいだから」
「いや、それだけではないだろう」
「垂れ目のせいだよ。だって伊達さん、ツリ目とまで言わないけど、垂れてないじゃん」
「それは…関係ないだろう。先生の場合……何だろうな、肌の感じとか、雰囲気もだし……仕草とか、表情もだな…後は」
「………ちょ、も、イイデス…」
「…何が」
「何か……言われてて恥ずかしくなってきた…」
「何故」
「知らないけどさ、何か……おお、すっげー恥ずかしい…っ!早く治療しよう!ほら、入って入って!」
「そうか、先生は来年30歳か…」
「うううう…俺だって30超えれば大人の雰囲気くらい、身についてくる…!……はず」
「…無理だろう」
「悔しーっチクショー、今に見てろ!」
「先生は先生のままでいいではないか。…で?」
「…で?って、何が?」
「来年のいつ、30になるのだ?」
「………………………それは……まぁ、いいじゃん」
「何故隠す」
「……………………伊達さん、そういう古い言い回し知ってそうだからなぁ…」
「何だ、正月男とでも言うのか」
「………!」
「…当たりか」
「ほんと、もう…何かヤだ……………くそー、それもこれも全部親のせいだ…!」
「だが世間では10月10日生まれを正月男と言うが、本当の正月男なら11月頃になるはずだろう?」
「それ解ってても、子供の頃はそんなん知らねーから散々からかわれ続けてきたんだよ!お前の両親、スキだねーって!!」
「それは厳しいな…」
「だろ!?……あー……何か今日はもう駄目だ…力が出ない…」
「最後の患者なんだ、気を抜かず対応してくれ」
「……………解ってるけどさぁ…」
「なら、…これをやろう」
「……?……お!生キャラメル!え、コレ、どしたの!?」
「貰い物だ。ただ私はそういうのはあまり好きではないのでな」
「え、いいの!?貰っちゃって」
「元より先生に差上げるつもりで持ってきたのだから、どうぞ遠慮なく」
「っわー!やったぁ!!!今日仕事終ったら早速食おうっと!サンキュー、伊達さん!」
「………………………大人の男にはなれんだろうな」
「…うぐ…っ!…………………悔しぃ…」
「まぁ先生はそのままで充分だと思う」
「うう……年下に言われてもちっとも嬉しくねぇ…」
「人を年齢で判断するな」
「それもそうなんだけど………ああ、でも美味しい、コレ…」
「!?…仕事が終わってから食べるのではなかったのか!?」
「我慢できんかった……つい……」
「……………取敢えず、治療を頼む」
「…あい」
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年上ですよ当麻先生。