羽柴歯科へようこそ



「あ、」

「……?…あぁ、先生、こんにちは」

「コンニチワ。って伊達さん、何してんの?」

「いや、それはこちらの台詞だ。何故こんな所に先生が?」

「今日はうち休み」

「なるほど。それでか」

「うん。ていうか伊達さんこそ何で?」

「取引先との打ち合わせの帰りだ。昼が近いからついでにどこかで食べて行こうかと…それは?」

「あ、コレ?さっき買ったんだ」

「本?」

「そ、本」

「随分と分厚いな」

「だろー?」

「…嬉しそうだな、何の本だ?」

「筋骨格の本」

「………筋骨格…」

「そう!コレさ、欲しかったけど個人輸入は面倒だナァって思ってたらそこの本屋で代行してくれるって言うから」

「頼んでいたのか」

「そゆこと!」

「本当に嬉しそうだな」

「解る?俺ね、こういうの、大好きなんだよ」

「ほお」

「骨ってさ、凄い綺麗なんだよ…人によりけり、人種によりけりだけど。すって延びててさ、綺麗に丸くて…不思議な形に全部機能があってさ。
それを覆ってる筋肉も人によって本当に個人差があって、上半身が発達しやすい人、下半身が発達しやすい人とか……って…ゴメン」

「何故謝る」

「……ついヒートアップしそうなった」

「…?」

「俺さー、駄目なんだよね。好きなことになるとベラベラ喋っちゃって、相手置いてけぼりにしちまうの。昔から」

「興味深い話だと思ったが」

「そう?伊達さん、ホンット、イイヒトだなー。俺、大概これでドン引きされてんだけど」

「そういうものなのか?」

「そ!コレで何人にフラれた事か………」

「フラれる程の事か?」

「だってさぁー考えても見ろよ。ディズニーランドの待ち時間中、骨の話ばっかする男とか…俺も後から考えりゃ充分反省はするんだけど…」

「その時は夢中と言うわけか」

「……そう…」

「先生の事を見た目でしか判断せずに好意を持つ程度の相手だったのだろう。先生が悪いわけではあるまい」

「でもさ、……いや、まぁ…そうかも知れないけど……」

「そんなに落ち込む必要もないと思うが」

「まぁね……そう言われればそうだけど…」

「何だ」

「いや、今チョット強烈なフラれ方したの思い出した」

「どんな?」

「定番っちゃ定番なんだけど……”私と骨と、どっちが大事なのよ!”って」

「普通そこは”私と仕事”ではないのか…」

「そんだけ俺の話にたまりかねてたんだろうなぁ…」

「それでどう答えたのだ?」

「………”歯”って答えた」

「………」

「ら、ビンタされた」

「…………………っ」

「…って、笑うなよ!正直に答えろって言われたから、俺は本当に、心底正直に答えたんだぜ!?なのに……なのになぁ…」

「ビンタか」

「うん」

「それは……いや、先生らしいな」

「そう?」

「ああ」

「………何かそう言われると安心する反面、俺って伊達さんからどういう人間に見られてんのか不安になってくる」

「……変わり者、か」

「えっ俺真面目に働いてる姿しか見せてないと思うのに!?」

「いや、確かに真面目だと思うが、言葉の端々に中々に面白い面が見て取れる事がある」

「…俺、みんなにそう思われてんのかなー…」

「そう落ち込むな」

「だって俺ってば彼女は割とすぐできるけど、すぐフラれちゃうんだもんなぁ」

「………先生はどうなのだ?」

「へ?」

「相手の事は、好きだったのか?」

「んー…………」

「…?」

「いや、うん……正直、よく解らないんだよな。でもまぁ、多分好きになれるかな、とか、徐々に好きになるかな、とか…」

「つまり自分から好きになった事はない、と?」

「改めて考えるとそうだな」

「そうか」

「あんまり考えた事なかったナァ……伊達さんって、えらいね、ちゃんと考えてて。やっぱ大人だナ」

「そういうわけでもない。……先生」

「ん?」

「先生の…好みのタイプというのは、どういうのだろうか」

「俺の?………えー…どうなんだろう……………………筋骨格とか…歯の綺麗な人かナァ…」

「結局そこに行き着くのか」

「だから笑うなって!…いや、でも多分、ホント、きっとそうだと思う…かな?」

「性格的なものはないのか」

「あ、そっちか!考えた事なかったな…やっぱ普通はそういうモン?」

「いや、どうだろうか…ただ先生らしくて私はいいと思った」

「本当に?」

「ああ」

「伊達さん、ホント、イイヒトだよなぁ………って、ゴメン、伊達さんは昼休みなんだったよな、ゴメン、時間使わせた」

「いや、構わない。まさかこんな所で会うと思わなかったから面白かった」

「面白かったんだ。…ま、俺も面白かったかな、ありがと。じゃ」

「ああ、では」




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公衆の面前でビンタをされた過去を持つ当麻。