羽柴歯科へようこそ



「はい、じゃあ……お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

「………なに?」

「いや…」

「何だよ、気になるな。俺の顔、何か付いてる?」

「そういうワケではないが…」

「なに」

「…その…若しかしたら失礼に当たるかも知れんが…」

「うん」

「昨夜はちゃんと眠れていないのではないか?」

「…………なんで?」

「妙に疲れている気がしたのだが…」

「…いや、…まぁ……当たってるんだけど…」

「大丈夫なのか?」

「あ、大丈夫大丈夫」

「本当か…?」

「うん。ホラ、今日も伊達さんで最後だし、俺、後は片付けて戸締りして…で、家帰ったら飯出来てるから特にすることないし」

「……次の予約は時間を少し早めたほうがいいか?」

「あー…いや、いいよ。別に、平気」

「しかし」

「伊達さんこそ忙しいのに時間作ってんだからさ、そこは駄目だって」

「だがそんな風に疲れているのを見るのは…」

「あーのさ、俺のは、コレ、仕事だから」

「……それはそうだが…」

「大丈夫、疲れてるとかそーゆーんじゃないから」

「………………」

「ホント、来週は普通になってる…と思う」

「あまり無理はしないで欲しい」

「…うん、………て言うか…何か、ソレ、おかしくない?」

「何が」

「いや、えーっと…患者が医者に言う言葉かなって」

「……それもそうか」

「うん」

「しかし思った事を素直に言ったまでなのだが…」

「いや、心配してくれてるのは有難く受け取るって。まぁ……大丈夫、…な、はず」

「先ほどから安心ならん言葉が付いているのが気になるな」

「いやー……まあ寝不足は寝不足だけどさぁ…まぁ……1週間もあれば充分かなって」

「何のことだ?」

「あ、いや、今の無し。大丈夫大丈夫、ホント、マジ、お気遣いありがとうございます」

「……………安心ならんな…」

「ほら、伊達さん、明日も仕事だろ?スーツ着て、ほら、な?」

「ああ」

「先に下、降りといて。俺あとから行くから」

「では…………」





「………………先生?………当麻先生、何処に………。…!?先生、先生!」

「んん……」

「先生!大丈夫か!?先生!!しっかりしろ!何があった!?」

「んー………ぁ…………ふ……」

「…何だ?聞こえない……先生、大丈夫か!?」

「あと5分寝たら……起きる……」

「起き……る?」

「……………?……アレ!?だ、伊達さん!!?」

「……一体何があった」

「………………いやあ………」

「後5分寝たら、というのはどういう意味だろうか」

「いや、伊達さん、マジで目ぇ据わってる、コワイコワイ」

「説明をしてもらおうか」

「……………ね、」

「ね?」

「ね……寝不足です…」

「それは少し前にそういう話をしたな。何故寝不足なのだ。過労か?」

「いや……そーゆんじゃないけど…」

「では何故」

「……………………………………………………ゲーム」

「……は?」

「いや、だからさ、…先週発売したゲームに…ちょっと凝ってまして……」

「ほお」

「それで…ついつい…」

「寝る間を惜しんでしまっているというのか」

「…へへへ」

「笑い事ではないだろう…!倒れるほど眠いなど呆れて物も言えん」

「や、ホント、今日は流石に反省したって!まさか仕事終わりに此処で意識飛ぶくらい眠いとは自分でも思ってなかったし…!」

「自己管理も立派な大人の条件の一つだ!全く……10代の学生でもあるまいに…」

「………はい」

「いつまで待っても降りてこないから何事かと心配すれば、ゲームのし過ぎで寝不足などと」

「…反省してます」

「今日は大人しく寝るな?」

「…はい」

「明日ももう11時には床に入ることだ」

「え!?そんな時間に!?」

「今日最初に見た時に顔色が良くないのが気になっていたのだ。身体のためにも少しでも早く寝ろ」

「嘘だろー…スタッフ、誰も気付かなかったんだぜ?」

「気付く気付かないの問題ではない」

「そりゃそうだけど…」

「兎に角、今日は帰って食事を取って風呂を済ませたら寝る」

「…はい」

「明日は11時に寝る」

「…………えー…」

「寝る。約束してくれ」

「…………………………はい」

「よし」

「親より厳しー…」

「普通、いい大人がされる注意ではないのだぞ」

「じゃあいい大人にしなくてもいいじゃんか…」

「先生」

「………解ったよ…!っもー……伊達さん、その顔はズルイって…」

「その顔とはどういう顔だ」

「………何て言うか…真剣です、みたいな顔かなぁ?」

「真剣に心配しているのだから当然だろう」

「え?そうなの?」

「何が」

「真剣に心配してくれてんの?」

「当然だ」

「…………伊達さん、そりゃモテるわ」

「………誰にでも心配するというワケではない」

「いや、そういう事言っちゃうと尚更モテるって」

「………………………。兎に角会計を済ませてもらっていいか?私もそろそろ帰りたい」

「あ、ゴメン、じゃあ下行こう」

「後片付けはいいのか?どう見ても途中のようだが…」

「明日の朝スタッフに謝るからいい」

「何と言って?」

「ゴメーン、俺、寝ちゃったーって」

「………………………」

「………ジョーダンです…」

「………手伝うから、一緒に片付けよう」

「え、いいの?」

「…そこで、悪いです、とならんのがまた…」

「あ………………」

「いや、私が言い出したことだし断られても手伝うつもりだったから気にするな」

「ホント、重ね重ねスイマセン…」




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