羽柴歯科へようこそ



「うーん……減っちゃあ出来、減っちゃあ出来…って感じだなぁ」

「ふわん」

「?ああ、すまんってか」

「ああ」

「いや、謝んなくていいって。まーしょうがないよな、忙しいと身体が疲れて口内環境も悪くなるし。…あ、口、濯いで」

「……しかし治し甲斐がないのではないのかと…」

「ソレを言っちゃオシマイだろ。…ま、いいって。伊達さん、毎回来てくれるし、遅い時はちゃんと律儀に連絡くれるし」

「それは当然のことではないか」

「それがそーでもナイ人とかいるんだって。…って愚痴ってもしょーがねーけどさ」

「なるほど」

「で、どう?まだ口の中、沁みる?」

「いや。此処に来る前より断然良くなった」

「ならいいんだ」

「先生の腕がいいのだろうな」

「おお、褒めても何も出ねーぞ…って、あ、ポケットにチョコならあった。…食べる?」

「いや、結構。…しかし何故そんな所にチョコレートがあるのだ」

「俺、甘いの大好きなんだよねー」

「………だからと言って普通、ポケットになど入れんだろう」

「患者の女の子がくれたんだよ」

「先生もおモテになるようで」

「だろ?て言っても幼稚園の子だけどね。大好きなお菓子だけど虫歯になったから先生にあげる、だってさ」

「可愛いものだな」

「な。ウチって表立って小児歯科とは書いてないけど、実質小児も扱ってるから結構来るんだよ、子供」

「可愛くて仕方ないという顔だな」

「そう?俺、そんなに子供、得意って程じゃないと思うんだけど……まぁ1人っ子だからかな?」

「だろうな」

「え?何が?」

「1人っ子」

「げぇー…やっぱそう見える?」

「別に悪い事でもあるまい」

「どうだか。……そういやさ、伊達さん、ウチに来るまでに3ヶ月程空いてるけど、どっか余所行ってた?」

「いや」

「あぁ、じゃあ忙しかったんだ」

「…そうでもない」

「じゃあ何で?俺、確か歯科検診の時に、口内炎なら歯科で診れるからウチ来るか行きつけに行った方がいいかもって言わなかったっけ?」

「それもそうなのだが……」

「………?」

「…いや………」

「………え、もしかしてさ、……伊達さん、歯医者、怖いとか…?」

「………………………………悪かったな」

「ええーー!マジ、嘘、マジなの!?伊達さん、歯医者、怖い!?」

「そんなに笑うな」

「いや、いやいやいや、マジ、ゴメ……って、でも、駄目だ、マジかよー!」

「仕方ないだろう。小学生の頃から歯科検診でどこも治療箇所がないままに大人になったのだから、歯医者なんて来た事もなかったし、
それに人から聞く歯医者のイメージというのがどれも恐ろしくて……」

「えー、でもさぁ……!って、駄目だ、伊達さんの顔見たら余計笑える…!」

「失礼な…」

「だってさ、だって伊達さんって、すげー、”大人の男”って感じなのに、それが歯医者怖いとか…!!!」

「私だって好きでこんな顔に生まれたワケではない」

「世の中の男全部に謝れ…!つーか……そっかぁ…伊達さん、歯医者、怖いかぁ…」

「今はもう平気だ」

「あー、だよなぁ。ウチ、小児も扱ってるからみんな優しいもんなぁー」

「だから笑うなと…」

「で?」

「で、とは?」

「いや、3ヶ月間悩んだんだろ?」

「…………まぁ」

「何で来る決心ついたんだ?」

「……口内炎が痛くて…」

「だろうな。数が半端ないもんな」

「それで、完全に見知らぬ人のところに行くより、少しでも知っている所のほうがいいと思って…」

「で、うちに来たんだ」

「ああ」

「そっかぁ…伊達さん、歯医者、怖かったのかぁ」

「もういいだろう、その話は」

「ゴメンゴメン。何かすげー意外でさ、ホント、悪気はないんだけど、…面白いなー」

「………不公平だな」

「何が」

「私だけそういう事を知られたというのがだ」

「え、何」

「先生も何かそういう事を教えてもらおうか」

「ちょ、ちょっと待てよ、それってオカシくないか!?」

「先生は何が怖いのか気になるな」

「いや、ホント、駄目駄目駄目、本当、いいから、そういうの。ホラ、俺、後片付けあるから会計済ませよう」

「自分の時は逃げるのか」

「いやいや、いやいやいやいやいやいや、ほら、伊達さん、もう時間遅いし。明日も仕事でしょ。ね。さー、もう帰ろう帰ろう」

「……………まぁ、来週も予約を入れているんだ。時間はある。今日は帰ろう」

「今日は、とか………うげー、マジかよー…」




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歯医者が怖い征士。当麻の怖いものは内緒。