羽柴歯科へようこそ



「いやぁ……まさか…へぇ」

「……人のレントゲンを見ながら一人で納得するのはやめてもらえないか。不安になると前に言ったではないか」

「あ、ゴメン」

「で、何がまさかなのだ」

「いや、征士ってさ、美形じゃん」

「私はそう思えん」

「マジ世界中に向けて謝れよ。…美形なの。で、歯並びも綺麗なんだよな」

「それはしっかりとした顎に産んでくれた両親に感謝しなければな」

「本当だよ。で、それどころかレントゲン撮ってみて解ったけど、歯根も綺麗」

「…そういうのに綺麗、綺麗ではないというのはあるものなのか?」

「勿論!もうコレ見てみろよ、何かの見本かってーくらいに綺麗」

「…………私には判らん」

「そう?あぁ、でもそっか。俺は仕事で色んな人の歯やこういうレントゲン見るけど、征士は見たことないもんな」

「ああ」

「まぁ、綺麗なんだよ。っていうコト」

「それに感心していたのか」

「そーです」

「…喜んでいいのだろうか」

「さあ?少なくとも俺は喜んだけど」

「当麻が?」

「だってこういう骨の人間、いるんだ!って」

「ああ、筋骨格マニアだったか」

「ひでえ言い方だな、オイ」

「間違いではないだろう?」

「………まぁね」

「…………………」

「………………あの、さ」

「…何だ」

「その、……次の、予約なんだけど…」

「…………………」

「………3ヵ月後、になるから。その……征士はさ、ホラ、忙しいだろ?」

「………ああ」

「だから、いつって決めないで、その……3ヶ月くらい経った時で、征士の都合のいい時に連絡、くれたらそれでいいから」

「………………」

「それこそ別にウチじゃなくたって検診はできるしさ」

「……………当麻」

「絶対ウチじゃなきゃ駄目だって事はないんだ。歯医者、もう怖くないだろう?」

「…当麻、」

「虫歯もないし、それに定期健診をしておけばそこまで酷い虫歯にもならないから、怖い思いもしないで済むし」

「当麻、聞け」

「…………なに」

「…………」

「………何だよ」

「…………当麻、聞いて欲しい話がある」

「…………………だから、なに」

「…………」

「………」

「当麻、………。……………………………………………私は、お前が好きだ」

「………………え、」

「同性にこんな風に思われて気持ちが悪いかもしれない。だが、私は本気だ。嘘じゃないし、からかってもいない」

「………………」

「当麻に会えなくなるのが辛いが、若しかしたら今日で本当に最後になるかも知れないと思うと気持ちを誤魔化せなかった。
だから、…当麻、好きだ」

「………………」

「……そんなに驚いた顔をしないでくれ、…その、解ってはいても傷つく」

「………いや、」

「いや、それも当然か。男に言われても困るだけだろうしな」

「…いやそれよりも」

「ああそうか。大丈夫だ、此処で迫ったりはしない。幾ら何でも相手の意にそぐわん事を強いるつもりはない」

「そうじゃなくって」

「では何だ」

「その……いや、まさか征士が俺の事をそう思ってるって知らなくって」

「そうだろうな」

「あの、何て言っていいのかちょっと解らないんだけど、」

「腹なら括ってきている。…あまり手酷い言葉だとショックで寝込むかも知れんが、ある程度は甘んじて受け入れよう」

「俺も、その……征士、好きかなーって」

「そうか……。……………………。…?…待て、今、何と」

「だから、…俺も、好き、って、…その…思ってまして」

「………………」

「いや、そっちこそそんな驚いた顔すんなよ」

「…当麻は随分冷静だな」

「冷静じゃねーよ。今混乱してる最中」

「………本当に?私をからかっているワケではないのだな?」

「本当、本気。俺、初めて人を好きになっちゃったみたい」

「……………」

「で、正直に今、どうしていいのか悩んでる」

「悩む?」

「いや、だからさ、俺は征士が好きだけど、征士も好きって言ってくれて…で、どうしたらいいのかなって…こんなん初めてだから解らん」

「……そうか」

「…うん」

「……では当麻」

「なに?」

「目を、閉じてくれないか」

「………え。ちょ、ちょっと待って」

「何だ」

「いや、目ぇ閉じるって、だって、そんなん、え…ちょ、無理だって」

「何故」

「だ、だだ、だってお前……目ぇ閉じたら……キ、……キ、…スすんだろ…っ!?」

「そのつもりだが」

「アッサリ認めるなよ!大体お前、駄目だって」

「だから何故」

「さっきフッ素塗ったろ!?30分は飲食禁止って言っただろ!?」

「ああ、言われたな」

「だから、そういうのも駄目なんだって!」

「なるほど。だが大丈夫だ、当麻。舌は入れない」

「お前真顔で何言ってんだよ!」

「仕方ないだろう。まさか受け入れてもらえると思っていなかったのだ。だからちょっと私も混乱している」

「混乱してんなら、ヤメろよ!」

「だが当麻、駄目だ、キスしたくて堪らない」

「だから真顔で言うな!それにお前、さっき自分で此処じゃ迫らないって言ったばっかじゃないか!」

「それはそれ、これはこれ、だ」

「どういう理屈だよ…!」

「だから受け入れてもらえると思わなかったし怖がらせたくなくてそう言ったが、そうではないと解るとだな」

「ちょ、本当、征士、待てって!」

「当麻」

「…………!」

「当麻、…駄目だろうか?」

「…………」

「……嫌なら…しない」

「………反則だ…」

「…?」

「だからっ……その声でそんなん言うの、反則だって…」

「では当麻…」

「ちょ、だからってお前…!」

「目を、…閉じてくれ」

「ホント、待てって!そ、それにキスすると1秒間に約2………!!……っっ…!」

「………………。」

「っっ………」

「……キスすると1秒間に、…何だ?」

「………1秒間に約2億個の菌が行き来するんだよ!」

「………なるほど…。…当麻がフラれる理由が解った気がする…」

「……悪かったな」

「謝らなくていい。私からすれば当麻らしくて可愛い」

「か、…可愛いとか…っ!俺、今年30!」

「…………。…当麻、…此処で30分待たせてもらってもいいか?」

「…!!!?ちょ、ちょっと、本気、マジ、駄目だって!此処、俺の仕事場だぞ!?解ってんのか!?」

「不味いのは解っているのだが、その、何と言うかもっとしたいというか、その……そんな顔で言われると尚更止まれんのだが」

「そんなってどんなだよ…!」

「だから、…顔を赤らめて涙目で言われても、余計に煽られる」

「!!!!!」

「……いや、解った。確かにそうだな。それに今日はもう遅い」

「…そうだよ」

「……………では当麻、今週の土曜日の午後は空いているか?」

「…?だから定期健診は3ヵ月後って言っただろ?」

「そうではない」

「??土曜は午前中しか診察してないけど?」

「だからそうではない。お前の個人的な予定は空いているのかと聞いているのだ」

「え」

「空いているなら、一緒に過ごさないか?」

「……え、えっと、それは……その…どっか行きたいトコとか、そういうのが」

「ない。当麻の行きたい所があるならそれに付き合うが、それもないのなら」

「…?」

「私の部屋に来ないか?」

「…………ちょっとタンマ」

「何なら泊まっていってくれてもいい。寧ろ私としてはそうして貰いたい」

「ちょ、マジ、タンマ!」

「何だ」

「お、お前、何言ってんだよ!」

「何、とは?」

「征士の部屋って…泊まれって、だってお前、それ…」

「さっきの続きがしたいとストレートに言ったほうがいいか?」

「…!!!!お、おおお、おま、おまえ…」

「仕方ないだろう。私だって男なんだ」

「だからって、おま、…何涼しい顔で言ってんだよ!」

「それに私は当麻より若いのでな。どうやらソチラに関しても若いらしい」

「……………」

「どうした、急に黙って」

「…空いた口が塞がらないんだよ!」

「………そういう所も可愛いな」

「はぁ!?」

「そうこうしてる間にフッ素を塗ってから15分経過したな」

「え、」

「塗った後でレントゲンを見たり色々していただろう?」

「あ」

「うむ。このペースなら後15分くらい、あっという間だな」

「ちょ…っ!も、もう下行こう!な!?征士、明日も仕事だろ!?俺も仕事だし!」

「必死だな。そんなに嫌なのか…?」

「は、……恥ずかしいんだよ!」

「……………」

「しょうがないだろっ!俺、自分から人を好きなったの初めてなんだから、何か…今までと違って恥ずかしい…!って肩掴むな!顔近付けんな!」

「…解った」

「……」

「本当に何もしない。今日は。大人しく帰るからそんなに喚かないでくれ」

「………ゴメン」

「兎に角、今週の土曜、空いているのか?」

「…空いてるよ」

「では仕事が終ったら連絡をくれ。迎えに来る」

「いいよ、俺、自分で行くから」

「…?」

「征士の部屋、行き方解ってるから、自分で行く」

「………。そうか、待っているぞ」

「…ってニヤニヤすんじゃねーよ!」

「大きな声を出すな。もう遅い時間だぞ」

「………ちくしょー…」

「………………当麻」

「……。…なんだよ」

「これからも、よろしく」

「…………………………………うん、……こちらこそ」




**END**
3ヶ月に1回は診察室デート。