羽柴歯科へようこそ



「伊達さん」

「何だ」

「伊達さん、そのミッキーの耳のカチューシャ、すごく似合ってるよ」

「ありがとう。先生もそのミニーの耳のカチューシャがとても似合っているぞ」

「そう」

「……………………」

「……………………」

「……………伊達さん」

「何だ」

「……心底、謝る。俺が悪かった」

「……………………」

「ちょっとはしゃぎ過ぎたというか悪ふざけが過ぎた……入ってすぐの売店でこんなん買うんじゃなかったな…」

「まぁ夢の国だ、はしゃいで悪い事などないだろう」

「そうなんだけど…………。…俺らってさぁ、周りからどう見えてんのかな」

「ディズニーシーに来てカチューシャまで着けた明らかに浮かれまくっている痛々しい男2人、だろうな」

「………ですよねー。ああ、周囲の視線がザックザク刺さってる気がする…」

「確かに見られてはいるな」

「…その理由が、伊達さんが男前過ぎるからっていう理由なら俺はまだ救われる」

「前にも言ったが先生だって充分人目を惹く容姿をしているぞ」

「髪の毛がね。はああ……どうせ絶叫マシーン乗るならと思って、俺、ディズニーシー来た事なかったし折角だからとは思ったものの…」

「先生、落ち込むな」

「そもそも考えたらディズニーのコースターは大して怖くない」

「そうか?昔、ビッグサンダーマウンテンに乗った時、私は怖かった記憶があるが」

「そう?」

「先生はああいうのがお好きだから怖くないだけではないのか?」

「そうかな…?そうかも…?」

「ところで先生」

「ん?」

「さっきから気になっているのだが、頬に菓子屑がついているぞ」

「え、さっきっていつからだよ!うわー、恥ずかしい!俺、今年30になるのに!」

「そこじゃない、反対の頬だ。もう少し右、行きすぎだ、あと少し上」

「どこ、え、取れた?」

「取れてない。……ここだ」

「お、ありがとー。てか伊達さん、そういう事はもう少し早く言ってくれよ」

「落ち込んでいるように見受けられたから切り出すタイミングがなかったのだ。それに」

「それに?」

「先生だって大人なのだからご自身で気付くかと思って放っておいた」

「気付いてる人間ならすぐに落とすと思わないか?」

「そう言われればそうだな」

「それとさ」

「何だ」

「…………その、先生っての、やめてもらっていい?」

「何故」

「考えてもみてくれよ、男2人でディズニーシーに来て、しかも頭にはカチューシャつけて浮かれまくってるヤツが、
先生って呼ばれてるって本当、何のだよ変態のかよっていう話だよ。奇妙だろ」

「変態とまでは思わんだろう。考えすぎだ」

「でも兎に角、先生ってのヤメてくれよ」

「解った。では………”羽柴さん”」

「うわ!呼ばれ慣れてないから気持ち悪っ」

「ではどうしろと言うのだ」

「下の名前でいいよ」

「当麻?」

「呼び捨て!?」

「ああ、それは失礼した。”当麻さん”」

「あ、何かそれも気持ち悪い」

「自分で言っておいて我侭だな」

「しょうがないだろ……やっぱり当麻でいいよ、友達もみんなそう呼ぶし」

「そうか。…では”当麻”」

「うん?」

「私の事も、伊達さんと呼ぶのをやめてもらおうか」

「何で?何も悪いことないだろ?」

「ある」

「はあ?」

「ただでさえ老けて見られるのに片方が呼び捨てで片方が”さん”付けでは、周囲から完全に私のほうが年上に見られる」

「そんなん気にしてたのかよっ」

「笑うな。結構切実な問題なのだ、私に取っては」

「えー……大人の男って意味なのになぁ」

「私自身が嫌なのだ」

「解ったよ。……でも何て呼べばいいんだ?”伊達”?」

「同じく下の名前でいい」

「俺、伊達さんの下の名前、知らないよ」

「………本当にカルテをちゃんと見ない人なのだな」

「スイマセン」

「征士だ」

「せいじ?」

「そう、征士」

「んー……”征士”ね、了解」

「ああ」

「な、”征士”」

「なんだ、”当麻”」

「………うわ、何かすごい照れる…っ」

「私だってそうだ。だが慣れればそうでもなくなるだろう。で、どうした」

「いや…もし恥ずかしすぎてもう嫌だって思ったら素直に言ってくれよ?そん時は俺も大人しく帰るし」

「私は割と楽しいぞ」

「そうなの?」

「ああ。当麻は楽しさより恥ずかしさの方が勝っているのか?」

「いや、俺は…楽しいけど…………征士って結構、神経図太いのな」

「当麻ほどではない。あ、当麻の場合は図太いのではなく、無神経なのだったな」

「オイどういう意味だ」

「そう大きな声を出すな、余計注目を集めるぞ」

「……………っ。…くそ」

「夢の国に来てるのだ、そんな言葉を使うな」

「…っちぇ、わかりましたよー」

「拗ねるな。花火も見て帰るのだろう?」

「おう」

「ではそれまでの予定を立てねばな。これが終わったら次に何処を回る?」

「俺、インディ・ジョーンズ乗りたいなぁ」

「ああ、これだな。並ぶな…」

「そうだな」

「先に昼にするか?」

「そっちの方がいいか。どこで食べようか……あ、ドナルド発見!伊達さん、一緒に撮って来いよ!」

「何故。それに、”征士”だ」

「あ、………征士、ドナルド、ホラ」

「だから、何故」

「誕生日一緒だろ?」

「……下の名前は知らんのにそういうのは覚えているのか」

「だって前にカルテで生年月日見たから」

「それで覚えているとは……そんなに私の歳に驚いたのか」

「俺、記憶力はいいのよ、ホント」

「そうか。なら、いい」

「それよか、写真!ほら、ドナルド行っちまう」

「撮らん」

「折角来たのに…会社の人に見せてやれよ」

「頭にミッキーの耳を付けてドナルドと写っている姿を?」

「うん」

「勘弁してくれ。当麻こそ撮って来い」

「ヤだよ、すげー恥ずかしいだろ」

「自分が嫌な事を人に勧めるとはどういう神経をしているのだ!!」

「征士、しー!しー!声デカイ!見られる!」




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開園と同時に来て、1日デート。