羽柴歯科へようこそ



「こんばんは。よろしくお願いします」

「はい、コンバンハー。じゃあソコのシートに座っ………って、ああ、伊達さんってアナタだったんだ」

「…?あの…覚えて、…らっしゃるんでしょうか」

「覚えてるも何も…あの時の検診の人だろ?口内炎の酷かった」

「まぁ…はい、そうです。しかしあれから3ヶ月ほど経っていますが…」

「俺、頭イイの。だから人の覚えは良くってさ」

「あぁ、成る程」

「や、嘘、嘘。ジョーダン。信じちゃうとか、伊達さん、超イイヒトだな。言われない?」

「いえ、特には…では覚えているというのも嘘ですか?」

「いやソレは本当。伊達さんの会社、企業にしちゃ珍しく会社単位で歯科検診申し込んできたから覚えてたんだよ」

「そうでしたか。しかし社員の数も相当いたと思うのですが、それでも覚えてらっしゃるのは凄いと思います」

「えー、そうかな?伊達さんくらい美形だとそう忘れないと思うけどなぁ」

「先生の方が…」

「うん?」

「いえ、先生の方がよほど人の印象に残ると思いますが」

「俺?…あー、髪ね。こんな色の髪の人間、珍しいもんなぁ。あ、それで今日予約してきた?だったら俺の髪もいい営業道具だね」

「いえそういう意味では…」

「ふうん?ま、いいや。はい、じゃあスーツ皺んなるから脱いでソコに掛けといて。で、座って」

「はい」

「じゃ、倒すから。はい、口開けてー相変わらず綺麗な歯だねー。…あー、でもやっぱ口内炎は…治ってるのもあるけど、出来かけもあるなぁ。
こんなに口内炎あったんじゃ、食事、つらいでしょ」

「…えぇ」

「接待?」

「えぇ」

「大変だなぁ……しかも伊達さん、モテそうだしなー」

「………………まぁ」

「何で顔顰めるかな。強く引っ張ってないと思うけど…もてるの、ヤかな。あ、一回ソコの水で口、濯いで」

「…………。面倒な時はあります」

「モテるのが?」

「はい」

「っわー、その見た目で詐欺だ」

「……………」

「はい、じゃもっかい寝て。口内炎ならレーザーでちょちょっとやりゃマシんなるから」

「はい」

「ちょっとチリってするけど、痛かったら手ぇ上げてくれな」

「あい」





「はい、今日はココまで。別に次来なくても大丈夫だけど、もし気になったりまだ出来るようなら来たらいいから」

「ありがとうございました。……あの、今日のような時間にしか来れないのですが構いませんか?」

「え?あぁ、うん、時間ギリギリだけど別に構わないよ。何?気にしてんの?」

「今日も無理を言って最後に入れてもらいましたし、それに診察室がどう見ても先生お一人でしたから、他の方は帰られた後なのでは?」

「あぁー、気にしないで。俺、ココ住んでるから」

「………は?」

「ここ、俺ん家」

「…いや、しかし先生、ここは確か……それに先生の名前…」

「………?あ、あー、あー、はいはい、そうそう、ここ羽柴歯科ね。で、名札が”当麻”ってあるからって事だ」

「はい」

「だって俺、フルネーム、羽柴当麻だもん」

「………………え?」

「俺の親父が、院長。で、俺は息子。同じ病院内に羽柴が2人いたんじゃややこしいから、俺は下の名前で呼ばれてんの」

「では、当麻先生は、…羽柴先生…?」

「そ。でもいいよ、うちで羽柴って呼んじゃうとさ、親父のヤツが返事しやがるから。スタッフ全員、院長って呼んでんのにさ」

「当麻先生……。では次に予約を入れるとしたら、当麻先生を指名すればいいんでしょうか?」

「うん。あ、でもいちいち指名しなくても診察券の番号言えばこっちで担当解るし、それにこの時間だと俺が担当になるだろうから大丈夫」

「この時間の患者は全て先生が対応しているのですか?」

「そ。親父がさー、自分はとっとと休みたいからって俺を居残りに指名してんの。職権乱用だと思わない?」

「…………………まぁ……何と言うか…」

「ま、裏口出て5分もせず家だからいいけどさ。…どーせ帰っても飯食って風呂入って寝るだけだし。あ、次、予約してっく?」

「あぁ、ではお願いします」

「来週くらいがいいかなぁ……空いてる?」

「来週の同じ曜日ならこの時間帯には来れるかと思います」

「そ、じゃ、俺もこの時間は居るようにするわ」

「ありがとうございます」

「………伊達さんさぁ…」

「何でしょうか」

「…敬語」

「?」

「いや、何だろう……伊達さんの敬語って……見た目の迫力も手伝って何か………怖ぇ」

「……それは…」

「あ、いや、ごめん、嫌だってんじゃないんだけど……えーっと…何だろ。何か、変な感じするから…やめてもらってもいい?」

「しかし」

「や、ホント。ここ、会社じゃないし個人経営の歯科医院だし、そんな構えなくていいし。あと多分、歳は…俺の方が下かも知れないし」

「…………同い年くらいかと思うのですが」

「ホラ!その敬語」

「……決定事項、なんでしょうか…」

「どうせこの時間、いつ来たって俺しかいないんだし、いいよ。な?」

「……………」

「駄目、かなぁ」

「……では………わかった」

「やった。俺そういうの、嫌いじゃないけど肩凝るからさー…正直1日の終わりに肩凝るような会話、したくなかったんだよな」

「そういう理由か」

「あはは、気ぃ悪くしたらゴメン」

「いや、しかしこの時間に無理を言って予約を入れたのは此方だ。…まぁ、お互い様と思えば」

「ありがと。んじゃ、俺、後片付けあるから、お気をつけてのお帰りを」

「いや、先生」

「ん?まだ何かある?」

「気付いてないのか?」

「何が」

「会計を済ませてない」

「…………………………………あ、」




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会社員×歯科医。じわりじわり接近予定。