マオトコ



「”明日は征士が飲み会で遅くなるから家に来ないか?”なんて言われた時は、アレ僕って間男だったっけ?って一瞬思っちゃったよ」

「間男ってお前…」

「まったく、いつの間に末っ子は恋人の居ない間に他の男を部屋に引き込むような子になっちゃってたんだろうねぇ」

「末っ子って言うな、他の男って言うな。人聞きの悪い……それに間男ってのは、恋人または夫婦関係にある男女の間に入る男の事なんだから、
厳密には男同士の間に入る男の事じゃないだろ」

「でも当麻、キミは征士と男同士で恋人やってるんだから、この場合も充分、”間男”でしょ」

「………伸は間男になりたいのかよ」

「それは辞退したいなぁ…だって間男ってアレでしょ、ドロドロの泥沼だよ」

「見てきたかのように言うな。身近にサンプルでもあるの?」

「わぁ、この子ったら急に興味津々になっちゃった」

「そういうのって見たことないからさ、何て言うの?追い詰められた時にこそ人間、本性が出るっていうから興味あるだろ。
知的好奇心、知的好奇心」

「と言う名の野次馬根性だね」

「知的好奇心の一部に世間一般で言う”下衆”な感情も混じってるのは認める。でもそれこそ人間の本質でもあるんだから」

「はいはい、言い訳どうもありがとう」

「で?」

「…で?って何さ」

「間男のサンプル」

「…………そこに話が戻るか」

「気になるじゃん。な、な。修羅場?」

「修羅場って言うか……僕だって知らないよ、そんなの」

「何で。だってさっき知ってるみたいに、」

「ドラマだよ、ドラマ」

「ドラマ…………え、今時そんなベタなドラマあったか?」

「平日の昼間やってるやつ。30分くらいの」

「………………伸って平日に休んだ日はそういうの観てんの?」

「ちょっと、何だいその目は。観てるわけないだろ。学生の時、夏休みとか春休みに観た記憶だよ」

「何だ、随分前の話か。…いや、それにしたって観てるんじゃないか結局」

「違うってば。僕が観てたんじゃなくて、母さんと姉さんが観てたの」

「あー…そういや、むかーしの記憶でお袋が観てたような気がしてきた…」

「当麻のお母さんも観てたの?」

「何だその顔」

「いや、意外だなと思って。そういうの観るように思えないからさ」

「観てるって言ってもアレだ、チャチャ入れてた。”そんな男、別れたら早いのにー”とか言いながら」

「あー……」

「伸のトコは?」

「いや、うちは…………………あぁ…」

「なに?」

「……”今時そんな人いるわけないじゃなーい”」

「あぁ、爆笑してたりしたわけか」

「そんな大きく笑ってたほどじゃないけど…まぁ笑ってたかな。”戸籍の上でキミの夫はあの男かもしれないけど、魂は僕のものだよ”とか」

「”隠れて、あの人が帰ってきちゃう!”とか」

「”来週の金曜、迎えに来る。一緒に逃げよう”」

「”家はマズイわ…いつものバーで落ち合いましょう”……………コレ、面白いか?」

「いや、笑えるけどね」

「な」

「それにしたって、こうして言ってみるとやっぱり僕、間男みたいな気がしてきた」

「だから何で」

「征士の居ない間にキミと2人きりで飲むんだもの。それもキミらの家で。疚しいことなんてないのに後ろめたくなってくる」

「考えすぎだろ。そもそも今日、伸が来ることを征士は知ってるし」

「そうなの?」

「寧ろ伸を呼べって言ったの、征士だし」

「え!?」

「え!?そんなに驚く?」

「いや、だって何で?」

「何でって?」

「何で僕を呼べって言ったの?………もしかして何か相談でもあるの?」

「ないない。そんなんじゃない」

「じゃあ何でさ」

「征士んとこの今日の飲み会、昨日急に決まったんだよ」

「うん」

「で、……まぁ何だ。俺って1人でほっとくと飯を食い忘れる事があるから」

「…うん」

「誰かが居れば、ちゃんと食べるだろうっていう」

「征士の案ってワケね」

「そういう事」

「…………………情けない…」

「俺だって情けないわい、そんな子供みたいな心配されて」

「心配されてって言うけど、キミ、何回もやらかしてるからこうなるんでしょうが!」

「そうだけどさぁ……でも1食抜いたくらいじゃ人は死なないんだし」

「征士としては気が気じゃないんだろうね、…っもー、………つまり僕はキミの子守を任されたわけだ…」

「その代わりいいワイン用意してやっただろ」

「そのツマミの一部を仕事帰りの僕に買わせてね」

「まぁまぁ。…ホラ、伸が買って来てくれたこの生ハムサラダ、すっごい美味しいから!」

「そりゃ僕が選んできたんだから当然だよ!」

「ほーら、伸。はい、アーン。美味しいから」

「僕は征士じゃないからそんなんで機嫌が直ったりしません。自分でとるから結構です」

「間男なのにかよ」

「…っぷ、間男って…!」

「ほら、伸。間男。あーん」

「間男ってそういう感じなの?僕、もうわかんないな」

「俺も解らん」

「……うん、このワインとよく合うね、すごく美味しい」

「このフリッターも旨い」

「でしょ?……そう言えば、何で今日はお店じゃなくて家での飲みなの?」

「家だったらゆっくり出来るから」

「なるほどね。お陰で僕は間男気分だ」

「よかったな、経験できて」

「あんまり要らない経験だと思うけどね」

「何言ってんだ、経験ってどこで活きるか解らんから、」

「ただいま」

「…っわ!征士!」

「あれ?早かったな。今日は下手したら午前様って言ってなかったか?」

「二次会の方は上手く断れたんだ。…伸、すまんな急に呼び出して」

「いや僕は構わないよ」

「あ、伸、隠れないとマズイ」

「………?当麻、お前、なにを?」

「……っぷ!隠れる場所はやっぱりクローゼットの中が定番かな?」

「伸まで一体なにを言っているんだ?」

「だったら俺の部屋のクローゼットかな。そんで俺が征士の気を引いてるうちに、こっそり逃げるんだ」

「おい、当麻、」

「征士は結構気配に聡いからなぁ…ちゃんと引き付けててよ?」

「努力はする」

「一体何なんだ、2人揃って」

「アレだよ、アレ。間男」

「間男?」

「そう、僕、間男なの」

「………?……??……さっぱり意味が解らん。お前らもう酔ってるのか?」




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長兄と末っ子でケラケラと間男ゴッコ。征士にはサッパリ。