会いたくても、会えなくても
「寂しかった?」
バスルームで対面した当麻は妖艶な笑みを浮かべたまま征士に問い掛けた。
「ああ」
それに征士は素直に答え、当麻の手を取り指先に丁寧に口付ける。
その答えに満足したのか当麻は声を立てて笑い、征士に咥えられた指先を動かして、中にある彼の舌先を擽った。
「俺もだ」
欲も露わに舌を絡め合うと、卑猥な音を立てた。
お互いに身体を寄せ合い、肌をまさぐると時折息が乱れる。
好き。
可愛い。
愛してる。
欲しい。
もっと、欲しい。
言葉にしても足らない思いを埋めるように、互いに貪欲に絡み合う。
「………ここですんの?」
キスの合間に当麻が聞いた。
すぐにその唇は塞がれた。
「一昨日の夜のようにか?」
空気を求めて離れた隙に征士が聞き返した。
当麻はその唇を舌でなぞり、少しだけ思案する。
「………アレはアレで興奮したけど…立ったままって結構疲れるんだよな」
普段やると大概の場合は嫌がられるのだが、この日は征士が軽々と当麻を抱き上げても彼は文句を言わず、それどころか自ら征士の首に
腕を回して抱きついてきた。
裸のままの身体をベッドに降ろすと、不安定な体勢のまま当麻が征士に顔を寄せキスを強請る。
征士もそれに応えて、さっきまでの続きのように深い口付けを再開した。
お互いの肌を滑る手に熱を高め、下肢は痛いほどにその欲を主張してくる。
自分の欲するものも、相手の欲するものも手に取るように解っている2人はそのまま互いの雄を優しく撫でた。
征士の大きな手に当麻は涙を浮かべ、当麻の細い指に征士は舌なめずりをする。
もっと深く。
そう思って一層舌を伸ばして、互いの口内を犯しあった。
「あぁ、……ん、……せいじぃ…」
奥に刺激が欲しくて堪らず、当麻が腰を揺らすと征士が心得たように足首を掴む。
ぐっと両方に割り開くと隆起したモノが蜜を零しそれが膨らみを伝い、そしてひくついて征士を欲しがる場所を濡らしているのが見える。
「欲しいのか?」
態と聞くと、当麻は頬を染めながら、欲しいよ、と答えた。
「何が欲しいんだ?」
「…………征士の、……が」
「私の何が?」
「……征士の、……………………硬くて、大きいの…」
「どこに?」
意地の悪い質問を続けると、当麻の目が潤みすぎて涙が零れた。
だが決してそれは辛いとか恥ずかしいとか、そういう涙ではない。
明らかに、欲が高まりすぎて流れた、熱だ。
「………俺の、………奥。征士しか知らないとこ」
自分しか知らない。そう言われて征士は更に興奮する。
人の肌を当麻しか知らない征士と違って、当麻は女の肌を知っている。
それでもその当麻の、見ることさえ不可能な場所は自分しか知らないのだと思うと、征士は更に雄を強くさせてしまう。
「…征士は?」
仲間にも聞かせない甘えるような声で、当麻が聞いた。
「私?」
「征士は、…欲しいか?」
無意識の媚態か、当麻は手持ち無沙汰だった手を口元に持っていって、それで自分の唇をなぞっている。
「ああ、欲しい」
「何が?」
「お前の、全部が」
「曖昧なのは却下。俺はハッキリしてくれなきゃ嫌なんだ」
知ってるだろ?と言うと、赤く濡れた舌が細い指を濡らす。その様に征士はくらりと誘われる。
「お前の熱くて狭くて柔らかい、誰にも見せない一番奥に入る権利が欲しい」
激しい欲を隠しもせず真剣に告げると、当麻がくすりと笑った。
「じゃあ、…………………来て」
最初は浅く、ゆっくりと。
徐々に奥まで挿れて、それから同じようにゆっくりと抜いて。
慣らすというよりも味わうように繰り返した行為は、途中で当麻の弱いところを徹底的に嬲る動きに変わる。
「あ、あ、あ、…あぁ、…あっ!…あん、…ああああ、……あぁ、あ、あ、あ、あ、…っはぁ、は、あ、せ、……じぃ…!!」
覆いかぶさるようにしている男の背に腕を回し、何度も押し寄せる快楽の波に堪えながら当麻が喘ぐ。
途中で何度かキスをして、その合間に愛してると囁くと当麻の後ろがその度にきゅうっと締まった。
胸も首筋も、脇腹にも腿の付け根にも、征士のつけた跡が沢山残っている。
征士の鎖骨の辺りにも、同じように当麻がつけたものが幾つかあった。
普段ならつける場所は限定させているし、会社勤めの征士には極力残さない当麻だが、理性が働かないほどに欲しているのか、
征士の肌に幾つも跡を残し、遠慮無しに声を上げて自ら腰を揺らしている。
その姿に征士は煽られ、いつも以上に腰を激しく動かした。
「ああ、……あぁ、あ、…やぁん、……だ、め、だめ、征士、そんなにしたら、……イク……!」
前と後ろを同時に攻められて当麻の雄は震えている。
すると征士は限界を訴えてくる恋人の身体を一旦離し、下は繋げたまま、腰も緩く揺らしたままベッドサイドの箱を手に取った。
「………?」
征士が取り出したのはコンドームだ。
とっくに挿入した後だし、中で出しても同性同士だから子供なんて出来ないのにとどこか冷静な頭で当麻が思っていると、征士はそのまま封を切り、
それを何故か当麻のモノに着けた。
「……せ、………あぁあ…!!!」
何をするつもりなのか当麻は尋ねようとしたが、動きを再開した征士にそれを遮られてしまう。
激しく絡み合う下肢。
熱をもてあました身体。
さっきまで当麻のナカ全体を味わうように動いていた征士の雄が、奥に擦り付けるような動きに変わった。
女には興味がないし、男も当麻以外は興味がない征士だが、雄の本能なのか、最後はいつも一番奥に精を吐き出そうとする。
その動きから征士も絶頂が近いのだと当麻も気付きはしても、もうそれ以上は何も考えられなくなった。
目の前にいる男のこと以外何も考えられない。
思考の全てが征士で埋め尽くされて、欲の全てが征士に向かう。
それは征士も同じようで、当麻以外の何も欲していない目で懸命に貪欲に、そして一途にその身体を欲しがる。
与えられても与えられても、欲は飽き足らずに沸いてくる。
その想いを受け止めてくれる相手の身体に縋りつきながら、2人は同時に果てた。
「………征士、そろそろ戻んなきゃまずいか?」
時計は既に11時を回っていた。
征士を連れて会場を後にしたのが7時ごろ。
移動時間を考えると3時間半は愛し合っていた事になる。
重くなった腰を擦りながら当麻が身を起こして尋ねると、その頭を自分の胸に抱き寄せて征士が溜息を吐く。
「そうだな、そろそろ戻らねば会社の連中に捜索願を出されてしまうかも知れん」
「そりゃ困るな」
プライベートで出かけると言ったのはどうやら会社の人間にも伝えられたようで電話は鳴らなかったが、メールはきっと沢山入っているだろう。
それら全部を、未だに見ていない。
いい歳をした大人が捜索願を出され、挙句の果てにラブホテルで恋人と情事に耽っていたとなると世間的にもいい笑い者だ。
その上、絶対、次に帰省した際には間違いなく伊達の母や姉にこっぴどく絞られるのだ。主に征士が。
「離れたくはないが…」
「明日会えるんだから、今日は諦めろよ」
そう言った当麻も寂しそうだ。
たった1日、会えないだけなのに。
お互いにそれは解っているのだが寂しいものは寂しい。
「なぁ、……明日、すぐ帰ってきてくれよ」
「ああ。解った。片付けたらすぐに帰る」
「うん。…俺、………待ってるから」
「ああ」
そう言って当麻は征士の胸元に口付け、征士は当麻の旋毛に口付けた。
手早くシャワーを浴びて服を着て。
幸せそうに笑いあって。
そしてホテルを後にした。
流石に宿泊しているホテルのすぐ傍で降ろすのは気が引ける。
だから車は少し離れた通りに停めて、そこで征士を降ろした。
降ろした窓から征士を見上げ、名残惜しそうに別れの言葉を口にする。
そこで当麻はハタと思い出した。
「そういやお前、アレ、どうした」
「アレ?」
「アレだよ、アレ。お前、俺に着けたろ」
「…?…ああ、」
アレ。は、イクと言った当麻につけたコンドームだ。
帰る前に忘れ物はないかとチェックしていて思い出したが、ホテルのゴミ箱にあったのは空になったパッケージだけだった。
「お前、まさかベッドの下とかに捨てた?」
訝しんで尋ねると、征士はキッチリと着込んだスーツの内ポケットに手を入れて、そこから似つかわしくない物を出してくる。
「いや、ちゃんと持っている」
当麻の目の前に出されたそれは口の部分がきちんと縛られていて、中身が零れることがないだろうコンドームだった。
中身は言わずもがな、自分の出したモノだ。
それに当麻の顔が一気に赤くなっていく。
「…んで、お前、そんなモン……!!!」
「当麻、夜遅いんだから大きな声を出すな。迷惑になるだろう」
「迷惑とか、そんな事じゃねーよ!お前、それ…!!!」
「明日1日仕事を頑張るためのお守りのようなものだ」
お守りじゃねー!!と叫んだが、征士は美しく微笑んだまま、明日は必ず早く帰るから、と言い残してホテルの方へと向かっていった。
取り残された当麻は暫く動くことが出来ず、あまりに長く駐車しているせいで様子を見に来た巡回のお巡りさんに、気分でも悪いのですか?
と物凄く心配される破目になってしまった。
*****
そんで征士は明日、本当にスーツの内ポケットに当麻の精液入りコンドームを入れて仕事に臨みます。
活き活きしていたと評判でした!
思いの外長くなりました。疲れた!