ピロートーク



苦しげで艶かしくて、それでいて幸せそうな声が響く部屋に、さっきまでは荒い息を吐いていた男の低い呻き声が混じると、
それまで継続的に続いていた肉を打つ音とベッドの軋む音も静かになった。

満足げに深く息を吐いた征士がゆっくりと身体を起こし、組み敷いていた当麻の頬を撫でる。
いつもはさらりとしている感触のそこは、今は汗ばんで幾分かしっとりとしている。
明るい陽の中で見ると鮮やかな青を見せる瞳も、今は情欲の余韻を残して随分と深く濡れていた。
それらを見つめ、征士は表情筋が硬いと言われている顔に緩い笑みを浮かべる。


「当麻、身体は気持ち悪くないか?」


情熱的に愛し合った身体は汗と、そして特に下肢は2人の体液でグチャグチャだ。
それを気遣って征士が声をかければ、当麻はゆっくりと視線を征士に移し、そしてそれはすぐに窓の外に向けられる。


「…………明日天気いいから、別にいいんじゃないか?」

「…そうか。なら、ナカのモノだけ出しておこう」


まるで見当違いの答えを返した当麻だが征士には彼の言いたい事が解ったらしく、相変わらず笑みを浮かべたまま
ベッドサイドに置いてあるボックスからティッシュを取り、その身体を清めていった。



当麻は人とのコミュニケーションをとるのが苦手だが、その原因が高すぎるIQのせいなのか、それとも単に照れ屋なだけなのか、
或いはその両方、若しくはもっと他にも理由があるのかは知れないが、何にせよ会話が成り立たない場合がある。
元々当麻には天邪鬼な面もあり、本心を言ってくれない事もあるため尚更だ。
それでも相手によってはきちんとした会話をするよう本人も心がけているが、仲間、特に征士相手となると甘えが出るのだろうか、時々ズレた事を言う。
それは自分の意思を汲み取ってくれる相手だからこその行動で、それを知っているから彼らは多少の文句は言っても、
それについて本気でとやかく口を出さない。


さっきの言葉だって、天気がいいのだから明日シーツを洗うとして今夜はこのまま寝てしまおう、と言いたいのだろう。

酷くモノグサに聞こえる言葉ではあるが、これにだってもっと深い意味がある。
征士には解る、それ。

要は、愛し合った余韻をそのままにしていたい、と言っているのだ。

いや、本当は本当に疲れて動きたくないだけなのかもしれない。
だが征士にはそう聞こえる。らしい。
だから今も、甲斐甲斐しく当麻のナカに出した己のモノを丁寧に出してやっている。



乾いたタオルで軽く汗を拭うと、征士は再び当麻の隣に身を潜り込ませた。
そのまま彼の身体を自分の方に寄せ、その額に口付ける。


「当麻、疲れてないか?」

「疲れたよ。めっちゃ疲れた。お前、いっつも長すぎんだよ」


征士訳:キモチ良かったよ。


「そうか、満足してくれたか」

「いやいやいや、オカシくね?その答えはオカシくね?つかお前、何でそんな絶倫なの?もう10代のサカリ盛りじゃないだろうに…」


征士訳:征士こそ疲れてないのか?


「人間、気持ちが身体を凌駕する事は多いものだ」

「お前、それが毎回とかちょっと異常だって…病院で診て貰った方がいいんじゃねえか」


征士訳:お前の身体が心配なんだよ。


「ってかあんまりくっつくなよ、暑苦しい」


征士訳:顔を間近で見られるの、恥ずかしいんだよ…


「今朝起きた時は寒い寒いと言っていたではないか」

「…うるせーな………てか最近、朝晩寒いよなぁ…」


征士訳:でも、だからもうちょっとくっついて。


「……………………何で抱きついて来るんだよ」


征士訳:だけどヤッパリ恥ずかしい。


「私がそうしたいからしているんだ」

「…あ、そ。……好きにしろよ、もう…」


征士訳:俺もこうしてたい。


「あ、そういえばさ、明日休みだろ?」

「ああ」

「朝飯、どうする?」

「何かリクエストはあるか?」

「んー…………考えんの面倒だし、手抜きでいいんじゃないか?トーストとコーヒーだけ、とか」


征士訳:だからもうちょっと、こうしてよう。


「お前の腹がそれで昼まで持ってくれるのならな」

「だから何でそんな力入れて抱きついてくるんだよっ苦しいだろ。もうちょっと隙間、空けろ!」


征士訳:俺が抱きつきにくい!


「当麻」

「んだよ」

「愛しているぞ」

「……っ!は、恥ずかしいヤツだな、お前は!!」

「何故?」

「そ、そんなん、…べ、別に言わなくてもいいだろうが、それも急に!」

「今伝えたくなったのだから、今伝えて何が悪い」

「俺の心臓に悪い!」


征士訳:恥ずかしい!


「心臓に毛が生えてそうな人間が何を言う」

「毛どころか、刃物まで生えてそうなヤツに言われたくねーよっ!」

「随分な言われようだな」

「ふん。うるせー」

「…で?」

「は?」

「当麻からは言ってくれないのか?」

「…………………………何を」

「愛している、と」

「……っ!!!ふ、ふざけんな!何で今言わなきゃなんねーんだよ!」

「もう私の事は愛していないのか?」

「あ…っ……あ、……愛してない、とか…そう言うんじゃ…ない、けど……」

「けど?」

「………………………………そりゃ…………好き、だけど…」


征士訳:好き。


「…って何笑ってんだよ!」

「いや、幸せだと思って」

「意味わかんねー…ホント、お前、時々意味わかんねーよ」


本当は解っているのだろう?
私がお前を解るように。

征士はまた、他の者には決して見せることのない笑みを浮かべ、今度は当麻の頬に口付ける。


「……………ってコラ」

「何だ」

「お前、何また勃ててんだよ」

「すまん。つい…」

「……ホンット、お前、絶倫だな……」

「いいだろうか?」

「……………………」

「…とうま」

「……………………………………………………………………先に、キスしてくれんなら」




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ナンダコレ。
征士さんは幸せな耳をお持ちです。
でもこの訳はきっと殆ど間違えてないですよ。