テレフォン



いつもより荒々しく口付ける。
その間にも、一刻も早く肌を触れ合わせたいと、競い合うように互いにパジャマのボタンを外していく。
何度も舌を絡めあい、焦れて空回る指によって漸く前が全て肌蹴られると、今度はむき出しの胸に手を這わせた。

征士の大きな手が当麻の腰を擽り、更に下へ降ろされていく頃、当麻は征士のパジャマを肩から落とそうとその隙を狙う。
その動きに気付いた征士は一旦右手を当麻のズボンから抜き、彼のしたいようにさせるがそれも僅かな時間だけだ。
すぐにまた彼の下肢に手を伸ばし、熱を持ち始めたばかりのソコを一気に追い立てる。
一瞬息を飲んだ当麻も、征士の昂りを布の上から態とイヤらしく撫で上げ彼を煽った。

ガタン。

征士が当麻を、彼のすぐ後ろにあったダイニングテーブルに押し倒したせいで、そこに置きっ放しにされていた子機が床に落ちる。


「…ここでヤんのかよ」


非難がましい言葉を吐いているが、当麻の目は寧ろ挑発的だ。


「ベッドまで行く時間が勿体無い」


一方征士は素直にそう言い、当麻に覆い被さるとまた激しい口付けを施す。
それを当麻が必死に抵抗して征士を引き剥がした。


「カーテンくらい、閉めろよ」

「どうせ誰からも見えんのだ。構わんだろう」

「………ケモノか、お前は」

「そうされて喜んでいるのは何処の誰だ」


そう言ってまた口付ける。
今度は当麻も抵抗せずに受け入れた。



特に何があったというわけではない。
ただ何となく今夜は少々手荒に彼を抱きたくなっただけだ。
普段は優しく、当麻を大切に扱う征士も、時々こんな風に激しい面を見せる。
当麻もそんな風になる征士が嫌いではない。
優しくされるだけでは物足りなくなる時が彼にもたまにあったので、もうこれはお互い様だ。


身体に幾つも跡を付けて、互いに熱を分け合って。
いつもは先に当麻を1度イかせてから抱く征士だが、今日はそのつもりはないらしい。
パジャマのズボンと下着を完全に彼から取り払い、そのまま尻を撫で上げて奥への入り口に触れた。


「………っ…」


まだ弛緩していない体は突然の感触に身を強張らせ、当麻の眉根がきつく寄せられる。
その表情がまた更に征士を煽った。


「イイ表情だ、当麻……興奮しているのか…?」


耳元で低く囁かれると、その声だけでイキそうになる。
けれど身体はもっと激しい刺激を欲しがり、中に入れられた征士の指を締め付けてしまった。
自分だけが追い詰められている現状が悔しくて、当麻も征士のソレにまた指を這わして誘ってやる。
行儀悪く足を使って征士のパジャマのズボンを下着ごと下げると、猛々しく勃ち上がっているソレが姿を見せた。


「お前こそおっ勃ててるクセに」


互いに欲を滲ませた笑みを浮かべる。
征士が当麻の片足を持ち上げ、ソコに自分の欲を押し当てた。
慣れた感触はこれからくる激しい快楽を期待させる。



その時。




プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル、……。




先ほど落とした子機が鳴っている。
一瞬そちらに気が散った征士だが、すぐにまた当麻へと意識を戻した。
だが当麻はそうはいかなかった。

子機が気になるらしく、ゆっくりと身を沈めようとしている征士がいるのに、必死に上体を起こし、首を伸ばして子機のディスプレイを見ようとしている。


「…当麻、」


そんなもの捨て置け、と言おうとした征士は、次の瞬間、勢いよく当麻に突き飛ばされた。
膝にパジャマのズボンと下着を絡ませ中途半端なM字開脚状態という酷く間抜けな姿は、既に準備万端になっている下半身も相まって
いっそ誰かに笑ってもらったほうが気が楽になりそうだ。


「当麻、おい」


地を這うような低い声が出ても仕方がない。
しかし当麻は謝るどころか慌てて子機を拾い上げ、征士を一睨みすると唇だけで、


「伸」


と、征士に電話の相手が誰かを教えた。




仲間からの電話は彼ら2人にとっても優先順位が高い。
それは大事な人たちだから、というのは勿論だが、それだけではない。
どちらかというと仕方がないような理由もあった。

今のような遅い時間にかけてきた相手が例えば遼の場合。
出なければすぐに諦めてくれるのだが、次にかけなおした時に


「ゴメン!セックスしてたよな、ゴメン!」


と何の恥じらいもなく彼は言い、そして自分の失言にまた狼狽えて失言を重ね、最後には自己嫌悪に陥ってしまう。


更に相手が秀の場合。
下手をすれば5人の中で一番良識家かも知れない彼は非常に気を遣い、折り返し電話をかけても


「っまー、まー、まーあね、最近この時間のテレビって面白いしな!風呂入ってたりもするしな!色々だもんな!」


なんて妙にハイテンションでやり過ごそうとし、次に会う日が近かった場合など他の仲間が離れた隙に、心底申し訳無さそうに謝罪してくる。


そして今のように伸が相手の場合。
普段とても優しいくせに、心を許した相手には悪ふざけをすることの多い伸は、コール音が長ければ長いほど、


「もういい歳なのにお盛んだねぇ」


などと冷やかしてくる。
これが対応したのが征士ならまだいいが、どうも当麻はこの手のからかいを受けるのは苦手なようだ。
すぐに言葉を詰まらせ、無言の肯定をしてしまう。
そしてそれを面白がった伸は本題に入らず、暫く当麻をからかって遊ぶのだ。

だから仲間の電話は無視できず、特に伸の時はなるべくすぐに出なければならない。




ダイニングテーブルに乗せられている当麻は、上はパジャマを肩にかけている状態で、下はこれも征士と同じく既に準備万端のまま、
それでも必死に平静を装って子機に向かって話し掛けている。
内容はどうやらナスティが帰国してくるからまた集まらないかという誘いのようだ。


「え?うん、俺は大丈夫。征士は……」


視線で問われ、征士も無言で頷き返す。
親や先祖には死んでも見せられないような間抜けな姿勢のまま。


「大丈夫だってさ。うん、じゃ、また柳生邸集合?あ、皆で空港まで迎えに?えーっと…」


またも視線で問う当麻も相変わらず笑ってしまうほど情けない姿で。
それに征士がまた無言で頷き、了承の意を伝えた。







少しばかりの世間話の後、漸く電話から解放された当麻が心底疲れたように長い溜息を吐いた。
その間、征士はずっと、律儀に突き飛ばされたままの姿勢だ。

互いに顔を見合わせ、そして次に互いの下肢を見る。
勢いを失くしたわけではないが、先ほどまでの獣のような欲は既に何処かへ行ってしまった。
間抜けな状態も相まって、さあ続きを、という気にはなり辛い。


「………………ヤる?」


突き飛ばした手前、一応伺うように当麻が聞いた。
淡白な彼は、やめる、と言われても割合平気な方だ。
熱を完全に醒ますのにはちょっとばかり時間が必要となるにしても。


「………留守電にしろ」


しかし征士はそうでもないらしい。
先ほどまでの激しさはないが、それでも愛しい人を求めたいようだ。


「こんな状態見てお前よく気持ち継続できんなー」


当麻は呆れたように笑って、言われたとおり留守電に設定する。
言い忘れたと言って伸がまた電話をかけてきても今度は出るつもりはない。
きっとまた盛大にからかわれるだろうが、きっとそこは言いだしっぺでもある征士がどうにか巧く誤魔化してくれるだろう。
だったらまぁいいか、と相変わらずの姿勢のままの征士に跨った。


「…ここでするのか?」

「ベッド行ってもいいけどネ」


口角を上げて笑って見せると、征士の力強い腕が背に回される。


「行かなくてもいいだろう」

「此処、汚しちまうけどな」

「……………明日私が掃除しよう」

「ならいいや」


当麻も征士の首に腕を回して、今度はゆっくりと口付けを楽しんだ。




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電話があっても、あの後コンビニに行っていたと征士は言うと思います。
でも伸はきっと、2人して?と聞き返しますが、それにも征士は、うむ、と答えるんです。強い男です。