笑う男
時計を見るともうすぐで定時をさすところだった。
仕事も今日は順調に片付いているし、この分だと定時過ぎには帰れるかもしれない。
余裕が出来た征士はふと昨夜の事を思い出す。
昨日は珍しく当麻がソノ気になっていた。
二人でくっついてテレビを観て、その後で断られると思いながらも風呂に誘うと、
彼は目を逸らして、けれどすぐに視線を戻して小さく、別にいいけど…と答えてくれた。
しかも若干、頬を染めて。
そんな可愛らしいリアクションを返されたものだから、征士も風呂では大いに甘やかしたし甘えた。
お互いの身体を洗いあったり、合間に何度もキスをしたり。
あまりの愛おしさに、風呂で始めようとしたが、それは丁重に止められた。
ここじゃ狭いし思いっきりできないから、と。
その時の当麻の照れたような、でもどこか挑発的な雰囲気を見せる笑みを思い出して、
まだ就業中という事を忘れそうになる自分に苦笑が漏れた。
思考を自分の目の前のパソコンに集中させる。
カタカタとキーボードを叩いて明後日には提出する議事録の文書を作成していく。
が、視界に入る己の指を見て、また思考が昨日の事に傾いていく。
ベッドに移動するなり自分の指を丁寧に舐め、時折上目遣いに見てくる彼の姿。
まるで自分のモノを舐められているような錯覚に陥り、我慢が利かなくなる。
一気に覆いかぶさり風呂場でしたのとは明らかに違う、もっと欲を含んだ口付けをして、
裸のままの腰を撫でさすった。
お互いに角度をかえ深くなっていくソレに時折、酸素を求めた彼の甘い声が混じる。
それがまた自分を煽り、理性を溶かしていく。
胸に噛み付き、舌でその尖りをねぶり、空いている手で彼自身に丁寧に触れると既に先走りで濡れていた。
うっとりとしかけて、そこがまだ社内で、しかも自分の席だと思い出し、征士は誰に聞かせるでもなく咳払いをした。
周囲を見渡したが自分の様子に気付いた者は誰もいないらしい事に安堵する。
一体何を考えているのか。
いや考えているのは愛してやまない当麻の事だし、とても幸せな事なのだけれど、それは今思い出していいものではない。
就業中、というのもあるが、今思い出してどうにかなってしまっても家までの距離と時間がある。
流石にその状態で家までの道中を過ごすなどあまり良くない。
縦しんばどうにか家まで持ったとしても、その勢いで当麻を求めた所できっと彼のことだから向こうは全くソノ気ではないだろう。
こっ酷く怒られて、下手をすれば寝室に入れてもらえないかもしれない。
まだ今週が始まったばかりだというのに、きちんと睡眠が取れないのは困る。
それにしても。
また頬が緩む。
緩むと言っても表情筋の硬いと言われる征士だ。
よぉっく見なければ解らないほどの表情の変化でしかない。
が。
彼の思考は既にまた昨夜の事に入り込んでいる。
小さいが形のいい、触り心地のいい尻を撫で、開き、そして舌を這わせた。
そのまま位置をずらして今度は前の膨らみに口付けて軽く歯を立てる。
上から艶を含んだ声が聞こえた。
それに気をよくして隆起したモノを口に含んでやり、丁寧に攻める。
その間に今度は指で後ろを解しにかかると、彼が足でシーツを蹴るのが解った。
ゆっくりと中に押し入り、優しく、けれど激しく何度も身体を繋いだ。
嬌声の合間に、もっと、と甘く強請られる。
それに応えるように、優しく。激しく。
ああ、まずいな、と征士は思う。
終わったあとの心地よい気だるさの中で当麻が自分の髪に指を通しながら、大好きだ、と囁いてくれた。
あの時の言いようの無い幸福感を思い出して。
ああ、まずいな、と。
昨日はあの後もう一度愛し合ったのに。
お陰で今日、少しばかり寝不足なのは否めないのに。
ああ、まずいな。
困ったな。
また今日も欲しくなる。
思いっきり抱きしめて甘やかして、そして激しくしてしまいたい。
こんなに逸る気持ちを抱えて安全運転で帰れるだろうか。
ああ、でも早く帰りたい。
ああ、困ったな。
昨日はああだったが、きっともういつもの当麻に戻っているだろう。
アレは元々淡白な方だ。
けれど気分屋な所もあるから、望みが全く無いわけではない。
ただ可能性がゼロではないだけで1%にも満たないソレをどう引き寄せようか。
目立つところに痕を付けると怒るから、昨夜は付けていない。
付けたのは胸と脇腹と、そして腿の内側だ。
ならばそれで不興を買うことは無い。
けれど激しくしたから今日は随分と身体がだるいかもしれない。
若しかしたら腰も重だるいのかもしれない。
どう宥めすかそうか。
どう甘やかそうか。
どう、乱してやろうか。
終業のチャイムが鳴った。
書類はまだ途中だけれど保存して帰る支度を始める。
帰る前に最近の当麻のお気に入りの店でお気に入りのプリンを買って帰ろう。
何ならフルーツが沢山乗ったタルトと、好きだと言っていたシュークリームも一緒に。
それで機嫌を取って、ベッドへ誘ってみようか。
そんな事を考えながら征士は口端に笑みを浮かべて会社を後にした。
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征士って絶対5人の中で一番ムッツリスケベ。