いとしい日
て言うか俺のこと「鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔!」って笑いやがったけどさ、ビックリするだろ普通。
家に人が居るんだぞ。留守だと思ってる家に。普通誰だってビックリして思考停止するだろ。
それをお前…あんな笑わなくたっていいだろ。
そりゃ後から考えりゃ、だから征士は家で過ごしたくないって言ったわけね、って解るよ俺だって。
でも前もって秀に合鍵渡しといて、俺らが出かけた後でいつでも入れるようにしとくとかさ、ビックリするじゃん。
あー、だから征士は人の気配がしててもニタニタしてたんだな。ビールのせいじゃなかったんだ。何だよ、つまんねぇ。
大体サァ………
「お前のために俺ぁ朝から店の厨房で料理仕込んで、ここで仕上げてやってたんだぜ!?」って秀は言うけど、今日、アイツの店定休日だし。
「今日は絶対に残業できないから、限られた時間内に僕がどれほど仕事を頑張ったことか」って伸は言うけど、 アイツの会社も征士と同じで、
今日はノー残業デーだって前に聞いて、俺、知ってたし。
「時間に間に合いそうになかったから、向こうのコーディネーターに荷造り全部任せて飛行機に飛び乗ったんだからな」って遼は言うけど、
…………いや遼だけはマジだな。うん。
他の2人の恩着せがましさは兎も角、遼のはマジだ。
何てったって遼ってば、自分の誕生日にさえ帰国できないような奴だからな。
(だから今年の遼の誕生日は前倒しで7月にやったんだよな。8月はどうしても無理だって言うから)
本当、呆れるな。アホだ、アホ。お前ら一体幾つなんだよ。(遼は除くぞ。遼のはマジだから)
それより何より、征士のドヤ顔って会社の人間とか見たことないだろうな。
いや下手したら伊達家の人間も見たことないかもな。
リビングに皆が居てビックリした俺が振り返った瞬間の征士の顔、ああこれがドヤ顔っていうんだな、っていうくらい、正しくのドヤ顔。
ちくしょう、俺としたことがあんまりにも予想外すぎて、つい写真に取るのを忘れちまった……
見事なドヤ顔だったのに…ドヤ顔征士だったのに…………!
それにしたってコレはアレか。
征士の誕生日にこっそり皆を集めてた事に対する、征士からの仕返しか。
俺をビックリさせてやろうって事か。
ったくもぉ……お前も幾つだっていうんだよ…
みんな征士の事を冷静だ大人だ落ち着き払っているだの言うけど、コイツ、こんなモンだからな!って征士の会社のみなさんに言って差上げたい。
……………………まぁ、………ものすごく嬉しかったけどさぁ…
だって今年の誕生日は平日だし、まぁ週末に集まるくらいかな?って思ってたのに不意打ちでコレだから…
そ、それにさ!それに、郵便でだけどナスティと純からもバースデーカードが届いてたんだよ。
こっちは毎年くれてるものだけど、それでもやっぱり何て言うか……まぁ、…やっぱり嬉しいよな、こういうのって。
でも流石に、
「そういや3時くらいに留守電にメッセージ入ってたぞ。征士の、…アレはカーチャンかな?おめでとうございますって。何か長々と。
それから何てったっけな、姪っ子?何かお前のこと、当麻お兄ちゃん、って呼んでる小さい子の声で誕生日のメッセージ入ってた」
って秀に言われたのは恥ずかしかった…!(そういやアイツ、3時には既に家にいたのかよ!)
確実にお義母さんだろうし、小さい子ってのはアレだ、皐月ちゃんとこの末っ子だ。俺のこと、お兄ちゃんって呼んで懐いてるから…
(因みに征士は、征士オジサンって呼ばれてた。爆笑したら本気で凹まれた)
あああ、恥ずかしい…!
征士と出かけてるであろう事を気を遣って携帯じゃなくて家の電話にかけてくれたんだろうけど、そこには今日、俺らの仲間がいたわけで…!
そうだ、電話って言ったらまだあったんだよ…
家の電話じゃなくってこっちは携帯に直接かかってきたんだけどさ、………お袋から。
夜だよ夜、みんなが帰った後。寧ろもう眠くなってる頃。
相変わらずのあのテンションで、開口一番「とうまくーん!」って……お袋、アンタ今年で一体幾つだよ…
『今ねー源一郎君とプラハにいるから時差がわかんないんだけど、日本って今10月10日?え?そう、だったら良かった!当麻君、お誕生日おめでとうねー!
今日はねー本当はパパと2人で当麻君に会いに行こうかなって思ってたんだけど、伊達君と過ごしてるかなって思って遠慮したのよー優しいでしょー!
それでねそれでね、そのかわりに源一郎君と2人で当麻君が生まれた日に、当麻君が生まれた事をお祝いしてるの!うふふ!楽しいわよー!』
『母さん、日本は多分夜なんだからそれくらいにしとかないと…』
『えーだってホラ、源一郎君も当麻君にオメデトウって言ってあげてよー!』
『私は後でメールしておくから』
『後でって何よ、今言えばいいじゃない!』
『いや、だから母さん。日本は今夜だから、』
『夜だから、何よ』
『だから当麻も伊達君も夜だから色々あるだろう、その……色々』
『えー、何?何よ』
『いや、もういい……………当麻、誕生日オメデトウ。すまんな、夜も遅いのに』
……ってさぁ…解る?なぁ、解る?
40を前にして親父に性生活(それも男同士の)について気を遣われる、この居た堪れなさ。
もうさぁ……ホント、……家に勝手に入られてるわ義実家は真面目すぎて恥ずかしいわ、親は騒がしいわで勘弁してって感じだったよ、本当。
でもさ、でもさ。
秀が作ってくれた飯は旨かったし、伸が買って来てくれたケーキも美味しかった。
遼が持って来てくれたどこかの山頂からの風景の動画は物凄く綺麗だった。
ナスティと純も会えなかったけど元気みたいで良かった。
お義母さんの様子だと伊達家も相変わらずみたいだし、俺の両親もそう。
正直、俺らももうオッサンだし騒ぐようなことも減ってきたんだけど、それでも今日は1日すごく楽しかった。
皆と過ごして、皆が帰ったあとは征士と2人でくっついて過ごして…すごく楽しかった。
何ていうかこう…………
……………………………………………、…愛されてるな、…というか…
あー、うん、今日はもう寝る!
今日は疲れたから、ただくっついて寝たいって征士にリクエスト(つまり、今日はヤんない)したら征士も嬉しそうに了承してくれたし、
だからもう寝る!
ていうか、征士の腕の中、気持ちいいから寝る…!
…………今思ったけど、俺がいつまで経っても征士より早く起きれないのは、明け方になっても征士が俺をこうやって
抱き締めてるからじゃないか…?
征士の体温ってちょうどいいんだよな、俺には。
だからすっごい眠くなるし、おきるきなくなるし、…それに………………………
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2012.10.01-2012.11.08までオープンしていた企画に参加したお話。
おやすみなさい。