或いは、後生だから



「なぁ、なーぁ、当麻、お願い!一生のお願いだから!だからお前の英語のノート、明日だけ貸して…!」

「お前なぁ…何で前もってちゃんとやっとかないんだよ」

「そういうお前だって普段やってねーじゃんか…!」

「そりゃ俺は直前でも間に合うからな」

「ほら!俺とお前じゃ頭の出来が違うんだから、…な、頼むって…!」

「何やってるんだい?あの2人は」

「俺も途中から見たからよく解んないんだけど、どうも秀のクラス、明日英語の授業で何ページ分かの訳を発表しなきゃいけないみたい」

「へぇ…」

「で、当麻のクラスはもう終わったらしくって、それで」

「そのノートを貸してって言ってるの?呆れた…!」

「あはは、…まぁ俺は秀の気持ちも解るけど」

「いい加減にしろよ、秀。俺とお前の頭の出来が違うって解ってるんなら、最初からちゃんとやっとけば問題なかったんだろ?」

「……なるほど。当麻にしちゃ随分とマトモな学生の鑑のようなことを言ってるね」

「だーかーらぁ…!出来なかったから、頼んでんじゃんか!」

「俺としては秀の気持ち、本当よく解るよ…」

「だが遼は自分でやる努力はみせるだろうに」

「あ、征士いたんだ」

「……いて悪いのか」

「そうは言ってないって、ゴメン。 …でもそうだよねぇ、遼と秀の違いはソコかな?」

「秀も悪気がないのは解るのだが、どうも忘れっぽくてイカンな」

「ううん……でも秀は他の部分で立派だから、…当麻、今回だけは貸してあげれないのかなぁ…なーあ、当麻ぁ、駄目かなぁ?」

「…遼まで………あのなぁ、今回はって言うけど、逆だよ逆!」

「逆ってなに?どういう事だい?」

「”今回くらい、いい加減自分でやれ”ってこと!」

「え、て事は…秀、キミ、何回も当麻に借りてたのかい!?」

「けしからん事だな」

「え、っちょ、そうは言うけどよぉ…!りょ、りょーぉ!?」

「…ごめん、そうなると俺もちょっと……フォローしきれないっていうか…」

「うおおお、孤立無援だ…!」

「自業自得だ、アホ」

「うわあ、うわあああ、マジ、マジもうアホでも馬鹿でも何でもいいから、とーま!ほんっと、ホントの一生のお願い…!」

「お前の一生のお願いは何回あるんだよ。聞き飽きた。軽すぎる」

「そう言わずに…!そう言わずにー!当麻、俺、当麻のことすっげー愛してるから…!」

「僕、あれよく聞くナァ…」

「”あれ”?」

「”愛してるから”っていうの」

「……呆れたやつだな。言葉に重みがなさ過ぎる」

「フランクなのが秀のいいところだと思うよ」

「うん、遼。そうやって人の長所をすぐに見つけてあげるのはとても素晴しい事だけどね、今はちょっと駄目だね」

「え、」

「うむ」

「…………でも一生のお願いかぁ…」

「一生分のお願いって言われてもピンと来ないよね、”重み”を考えると」

「……………………。…”一生の頼みだから、当麻、朝は自力で起きてくれ”」

「征士、その頼みは重いよ…」

「て言うかキミ、自分の一生のお願いをそんなところで使っていいのかい…?」

「重く考えすぎんようにしようと思ったら、こうなってしまったのだが……言ってからで何だが、自分でも悲しくなったな」

「言われた俺の方が何か悲しいわ!」

「何だ、聞いていたのか」

「聞こえてんだよ!お前、自分の声が内緒話に向かないの、解ってないだろ!」

「でもよ、とーま。お前が起きねぇと征士の一生のお願いがあんなんになるんだぜ?」

「煩い!ていうかお前の一生のお願いも俺にノートを借りるだけで終わっていいのか!」

「う…っ」

「でも一生のお願いかぁ…」

「なに?遼、何かあるの?」

「いや、…うーん……どうかなぁ…伸は?あるか?」

「僕も言われても……一生ねぇ……そうだなぁ…………。一生のお願い、…一生のお願い…」

「普通そうそうないものだろう」

「それが秀に限ってはあるみたいだね…」

「なー、とうまぁー」

「しつこいなー」

「なぁ、ホント、一生のおね、」

「だから聞き飽きたって」

「…………とうまっくーん」

「お袋の真似すんな!気持ち悪い!し、全然似てない!!」

「当麻、お母さんのこと言われるの結構嫌がるよな」

「まぁ照れ臭いかもね」

「愛情の裏返しだな」

「違うわ!!普通誰だって恥ずかしいだろ!!」

「どうどう、とーまー、落ち着けー」

「お前が余計なことするからこうなったんだろうが!!……ったく、…おい、秀」

「はい何でしょう当麻様」

「さまって………まぁいいや。お前、さっき俺のこと愛してるって言ったよな?」

「お、…おう、言った」

「ふぅん…じゃあ愛する俺の言う事、聞いてくれんの?」

「お…………お、お、…ぅ」

「返事が弱い。何だよ、俺のこと愛してるつったのは嘘か」

「い、いや!愛してるよ!愛してるから、その……言う事聞くからさぁ、…その、……ノート…」

「うんうん、愛してるかぁ、俺の言う事、きくかぁ」

「あ、あの子悪い顔してる」

「交換条件とはあまり感心せんな。何度も借りていたようだからそろそろ灸を据えてやるべきだろうが、アイツの場合は何を言い出すか解らん」

「よぉし、秀。俺の事を愛してるって言うんならな、」

「は、…はい」

「”今から自分で宿題やってこい”」

「えっ!!?と、とととと、とーま!?ちょ、ノートは…!?」

「ノートは貸さない」

「っちょ、む、無理…っ!」

「その代わりに特別に俺が見てやるから、自分でやれ」

「っと、とーまぁ…!」

「うむ、よく言った!当麻!!」

「えらいよ…!今日のシフォンケーキ、キミの分にたっぷり生クリーム乗せてあげるからね!」

「あい、…あい……し、……」

「……で、キミは何してるの?遼」

「いや、愛し、てるって……その、……言うの照れるよなと思って」

「まぁ…確かにそうではあるが」

「まぁね、…でも遼、何も今、キミがトライしなくてもいい事だと思うよ」

「あ、………そっか…」




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で、夜中までかかっちゃって、結局当麻は朝起きない。
「一生のお願い」を言う頻度は、秀がダントツっぽい気がします。