トリップ・トリップ



「あれ?ねぇ、誰か僕の靴下片方知らないー?」

「あ?何してんだ?伸」

「何って修学旅行の荷物詰めしてるんだよ」

「そっか、伸、明後日から修学旅行だったか」

「そ」

「どこ行くんだっけ?」

「京都だよ」

「京都つったらアレか、鹿煎餅」

「違います。それは奈良です」

「そうだよ、秀。京都は琵琶湖があるんだよ」

「うん、遼、それは滋賀県だね」

「全くお前らは…東日本に住んでても舞妓くらいわかるだろ?」

「おー!舞妓か!解るぜ!」

「顔を白く塗って着物着てる女の人だっけ?」

「そう。伸はその舞妓体験をしてくるんだ」

「当麻、キミは正解だけど大馬鹿だね」

「お前たちは全く……京都といえば京都タワーだろう」

「……征士、キミ、若しかして東京といえば東京タワーっていうタイプかい?」

「じゃ征士、神戸は?」

「神戸はポートタワーだ」

「伸、こいつタワーマニアだ」

「僕も流石に東北の人間がポートタワーを答えるとは思わなかったよ…」

「答えて何が悪い」

「いや、悪いとは言ってない」

「なー、そんなタワーの話よかさぁ、もっと大事な話しよーぜー」

「大事な話?なんだい、それ」

「ほら、修学旅行といえば…な?」

「?」

「っあー!察しが悪ぃな!なぁ、遼、解るだろ!?」

「えっ、お、俺?…何だろ………修学旅行といえば…枕投げ?」

「違う!」

「そうだぞ、遼。修学旅行といえば怪談話だ」

「え、そうなの?」

「違ぇよ!そんで当麻もマジに受け止めんな!」

「だって俺、あんまりそういうのに縁がなかったから…」

「当麻……」

「…当麻…」

「ほら、俺、布団に入るとソッコーで寝ちまうし」

「しんみりした俺の気持ちを返せ!」

「そうだよ!馬鹿!」

「何で俺、今こんなに怒られてんの…」

「それよりも秀、何なんだ、一体」

「へ?」

「そうだよ、秀が最初に修学旅行と言えばっていう話しをし始めたんだろ?一体何なんだよ」

「あーあーあー、……えー、コホン。修学旅行といえば、お土産、だろ?」

「あー…」

「なるほどな」

「そういう事か」

「実にキミらしいね」

「ってーワケでさ、伸、お土産、楽しみにしてるから」

「解ってるよ、木刀でいいんだね?」

「はぁ!?」

「え、違うの!?」

「当麻、京都のお土産って木刀がメジャーなのか?」

「そんなワケあって堪るか」

「伸のイメージがそういうものだったというだけなのだろうが、大概ズレたモノだな」

「征士に言われると何か傷付くな!」

「何故…」

「伸の気持ちも解るけど、それでも今回ばっかりは伸が悪いと俺は思う」

「俺も…」

「うーん……俺、もかなぁ…」

「えー…」

「お土産の話に戻すと、一番いいのは生八橋だな」

「またお前は食べるものか」

「いいだろ、別に。下手したら俺たちも来年、京都の可能性があるんだしさ、モノを貰っても正直微妙だろ」

「あーそっかぁ」

「でもそう言われると来年楽しみだな、京都」

「えー、そうか?」

「何だよ、当麻、すげーイヤそうな顔して」

「だって俺、地元が大阪だぞ。京都、近いぞ」

「そうか。だが私も中学の修学旅行が京都だったから、あまり嬉しいとは思えんかもな」

「征士んトコ、京都だったんだ。俺んトコは北海道だった。遼は?」

「俺は広島だったよ。当麻は?」

「俺、長崎。伸は確か東京って言ってたっけ」

「そう。でもそっかぁ…困ったな、お土産何にしよう?」

「だから生八橋でいいって」

「それはお前のリクエストだろ!鹿煎餅、鹿煎餅がいい!俺」

「秀、それは鹿の餌であって人間が食べるものではないぞ」

「えっ!!?」

「あ、この子、ホントの馬鹿だ」

「え、りょ、遼、知ってた!?」

「……ゴメン、知ってた」

「マジかヨォー………当麻…は、当然知ってるわな」

「当たり前だろ。だいたい鹿煎餅は奈良だって言ってるだろ。ついでに言うと奈良は大阪の隣の県だ」

「兎に角鹿煎餅はお土産として有り得ないから期待しないでね」

「まぁ土産は伸に任せる。木刀以外なら何でもいい」

「わかりましたよー、だ」

「あ、伸、沢山写真撮ってきてくれよ」

「遼はホント、写真が好きだネェ」

「父さんの影響もあるんだと思うけど、やっぱり色んなの観たいからさ」

「キミの期待に応えられるかは解らないけど、なるべく撮ってくるね」

「そうだ伸、京都なら漬物もあるぞ」

「当麻、お前、本当に食べ物以外思いつかないのか?」

「あっでもソレいーじゃん、漬物ならナスティも喜ぶかもよ?」

「それは言えてる」

「あー、じゃあ考えとくよ。………ってそれよりも、だから誰か僕のこの靴下の片方、知らない?」




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ナスティが漬物好きなのではなくて、単に食卓に出せるものだからという理由。