あるいは草原、あるいは焼け野原



「今帰った」

「…だいまー」

「おかえり、遅かったね」

「学級会が長引いたのだ。…ナスティは?」

「今日は友達と食べてくるってさ」

「それよりさ、遅かったのってもしかして文化祭の出し物でか?」

「そ。もー、ウチのクラス、大荒れ」

「征士たちのクラスって何の予定なんだ?」

「……。…喫茶店」

「なぁに、その、間。でも喫茶店じゃウチと被るね」

「伸のトコ、喫茶店!?調理側に伸、回るんか!?」

「凄い食いつき方だな秀…」

「うっるせーよ!どうせ当麻だって今ので気になってるハズだぜ!?な!」

「お前と一緒ってのが気に入らないけどな」

「かっわいくねーの!なあ、伸、どっち!?」

「今のところうちは女の子がお給仕と調理場で、男子が配達と調理場担当だから、僕は調理場側だね」

「よっしゃー!俺、行くな!」

「俺も行くよ」

「嬉しい返事だけど、気が早いよ。文化祭はまだまだ先なんだ。まだまだあくまで”仮決定”。………で?」

「で?って?」

「だから、キミらのクラスも喫茶店なんでしょ?」

「ああ。そうだが」

「征士がさっき間を作って嫌そうな顔までして言ったから何かあるのかなーと思って。喫茶店以外に何かやるの?」

「…………………」

「…………………」

「二人揃ってだんまりになるなよ、気になるじゃんか」

「準備、面倒臭いのか?」

「当麻なら兎も角、準備に手間がかかるくらいで私が嫌がると思うのか」

「お前のそういう決め付けって良くないと常々思ってんだけどな、俺は」

「何だ、面倒は歓迎だったのか。それは知らなかった」

「トゲトゲしいな。俺に八つ当たりすんなよ」

「…?何、本当に何かあったのか?」

「別に」

「そういう風には見えないね。確かに征士、ちょっと当麻に八つ当たりしてるでしょ」

「……………………悪かった」

「っちぇ、俺が言っても謝る素振りもないくせに、他に言われるとこうだ」

「当麻も拗ねないの。それから征士も謝る時はちゃんと相手を見る。らしくもないよ?…で、本当に何があったの?」

「…………………………」

「………言いにくいなら俺が言ってもいいけど?」

「…お前も同じクラスなのだから当事者だろう。……頼む」

「なになに、マジ、何?」

「ウチのクラス、喫茶店は喫茶店だけど……」

「うん」

「メイド喫茶やんの」

「………は?」

「メイド喫茶?」

「メイド喫茶って、アレか?おかえりなさいませご主人様、みたいなアレ?」

「………………うむ」

「またエライ方向に走ったねぇ……………ってちょっと待って。もしかしてさぁ、それ、……えーっと…」

「うん、伸の予想で当たってると思う」

「え、何、俺、わかんない」

「俺も。何だよ、おい、教えろよ、とーま!」

「焦んなくても教えるってば!暑苦しいな!近寄りすぎだ!」

「暑苦しいって言うな!そりゃ俺が太ってるって言いたいのかよ!?」

「秀、話が進まないからソコは後で突っかかりなさい」

「征士の八つ当たりは謝らしても、俺のコレは謝らなくていいってのかよ!?差別だ!」

「だから後でって言ってるでしょ?…で、当麻、……アレ、だよね?」

「うん。…どうも俺たち女装するみたい」

「…………………」

「…………………」

「……………ぅ…」

「……笑いたければ笑え」

「……っぷ、」

「う、…ふっふ、……くくく…」

「ぶは、…あは、……あはははははははは!あーっはははははは!女装!?なぁ、女装つったか!?征士と当麻が!?」

「そんなに笑うな!…腹立たしい」

「笑えっつったのはお前だろうが。……認めたくないけど、そうなりそう」

「俺、俺ぜぇったい行くからよ!おかえりなさいませ、やってくれよ!?」

「僕も行くよ、カメラ持って」

「お、俺も……行くよ。ゴメン、真顔で言えない、やっぱりちょっと……笑いそう…っ!」

「来なくていい!」

「そんな激しく怒ってやるなよ。俺だって逆の立場だったら絶対行くって言うしさ」

「何故お前はそう冷静なのだ!お前も当事者だろう!?」

「何でそんなにカリカリしてんだよ」

「女装だぞ!?お前は平気なのかっ!」

「わー、征士のヤツ、珍しくキレてんなー」

「な。征士、綺麗な顔してるから酷い結果にはならないと思うのに…」

「顔云々の問題じゃないと思うよ、僕は」

「ていうか当麻が余裕なのが却ってコエー」

「でも当麻も顔整ってるし、それに細いから似合いそうじゃないか?」

「そういう問題ではない!」

「わっ、飛び火した!」

「ごご、ゴメン…!」

「だから八つ当たりすんなって、征士」

「マジこえー…」

「悪いな、秀。コイツ、スネ毛を剃る剃らんで怒ってんの」

「そんなワケあるか!」

「スネ毛?」

「違う!」

「ま、そこは冗談としても学級会が長引いた原因はソコなんだよ」

「スネ毛でかい?」

「…下らん!」

「そ。メイド服ってスカートだからさ、女装するにしてもスネ毛をどうするんだって」

「……………どうなんだろうな。絵的には生えてた方が面白いけど」

「剃るべき派と残すべき派でモメまくって、明日以降に持ち越し」

「そんな下らん事でモメるなら、路線自体を変えるべきだ…っ」

「どーどー、征士、どーどー」

「私は馬か!」

「良かったね、政宗公の銅像も馬に跨ってるじゃない」

「伸…!」

「つーかお前らのクラス、お前ら2人揃ってんのに勇気あんなー…」

「でも見てみたい気はするかな」

「まぁ………整ってるしね、キミら。…でもスネ毛かぁ…」

「流石にどうだろうなー。いらっしゃいませご主人様つってる足元がボーボーとか」

「秀はボーボーだもんな」

「うお、遼も人の事言えネーだろ」

「俺はそこまでボーボーじゃないよ」

「いや、量的には俺ら変わんねぇよ」

「確かに秀はモジャモジャした毛質だけど、遼はまっすぐだもんね」

「で、伸は膝下だけで、チョロチョロだ」

「征士は毛の色が薄いだけで、割と生えてるよな。触るとフワフワしてた」

「煩い。そういうお前はツルツルではないか」

「そーだよ、そういや当麻、ツンツルテンだよな」

「ツンツルテンって言うなよっ!人を体毛がないみたいに言いやがって…俺だってあと何年かすれば生える!」

「それはどうかな。…生えても伸くらいの気がするけど」

「あ、お前ってさ、もしかしてアレの毛も生えんの遅かったクチ?」

「………………………………。………毛の生え具合の話なんかした事ないから知らん」

「そういう友達がいなかったと好意的に解釈しておいてあげるよ」

「知らんったら、知らん!」

「でもメイド喫茶かぁ…ソレ、運営側に通るのか?」

「文化の欠片もないような企画、通さんでいい!」

「征士、そんなに怒らなくても」

「そうだよ。ハゲても知らねーぞ」

「煩い!」

「お前のほうが煩いってば」

「だから何故お前は平然としているのだ…!!」

「だって通す通さん以前に、企画倒れだろ」

「え、」

「何で?」

「おもしろそーなのにか!?」

「普通に考えろよ、予算的に無理だって」

「……予算?」

「そ、予算。クラスの男子全員分のメイド服なんて買えるワケないだろ。金が要るのは衣装だけじゃなくて、その場合は紙皿とか紙コップ、
やるんならテーブルクロスも要るし、それに食材の調達だってあるんだぜ?布買って作るにしても足らなさ過ぎる」

「……………なるほど」

「わー、嫌なくらい冷静」

「流石は智将…」

「それに喫茶店ってのも流れそうだし」

「何で?」

「飲食系は上の学年から優先的に採用していくから、1年はやれない事が多いんだってさ」

「それ、どこで聞いたの…?」

「ナイショ。でも情報は大事」

「お前……それが解っていたなら何故学級会で発言しなかったのだ」

「だって面倒だし」

「面倒?」

「喋るの、面倒。あと、手ぇ挙げるのも、面倒」

「お前なぁ……いや、それでこそ当麻なんだけどよぉ…」

「あっきれた。でも良かったね、征士。スネ毛剃らなくて済んだじゃない」

「私の言いたいのはソコではないと言っただろう…!」

「はいはい。さーって、御飯にしようか」

「やったー!俺、腹減ってしょーがなかったんだよー!」

「伸、俺、手伝うよ。お皿出したらいい?」

「ありがと」

「……………………なんだよ」

「…いや……その。……八つ当たりしてすまなかった」

「いいよ、別にそんなん。お前の性格考えたら女装なんて嫌だったろうしさ」

「ああ……だが」

「んー?」

「私だってわが身に降りかからなければ、女装くらい笑えるぞ」

「性格悪いな!」

「否定はせん」




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タイトルはスネ毛の量的な意味で。
で、秀は当麻に謝ってもらうのを忘れているんです。